ありす「ブラックコーヒーを」 桃華「飲みましょう!」





ありす「コーヒーとは」

ありす「コーヒーノキから採れる実の種子を焙煎し」

ありす「挽いたものをお湯で抽出した飲み物」

ありす「さらに、コーヒーにはカフェインという物質が入っており」

ありす「その成分の効果で、飲むと眠くなくなってしまいます」

ありす「毎日一杯ずつ飲むと健康にも良いと言われていたりもしますので」

ありす「まさに不思議な飲み物ですね」




橘ありす(12)






ありす「そしてここに、この手元に、一杯のコーヒーがあります」

ありす「インスタントコーヒーをお湯で溶かしただけの簡単なものですが」

ありす「この香りは……間違いなくブラックコーヒー……」

ありす「そう、大人の香り」

ありす「これは砂糖も何も入っていない、純粋さ100%!」

ありす「感じます。ここから大人を感じます!」

ありす「月面に到着したアームストロング船長もこんな感情だったに違いありません!」




ありす「ふー、ふー……これでちょっとぬるくなってきたかな?」

ありす「では、いただきます」

ありす「……」

ありす「……!」

ありす「〜〜〜〜〜〜!!」

ありす「ぅぁ」




ありす「苦い! やっぱり冷ましても苦い!」

ありす「どうしてブラックコーヒーはこんなに苦いんですか!」

ありす「はぁ……」

ありす「こんな苦いものをおいしいって言う大人がわかりません。理解できません」

ありす「眠気覚ましのためなら、こんなに苦くても飲むのでしょうか?」

ありす「カフェインじゃなくて、この苦味で目を覚ましているだけの気が……」




桃華「ありすさん、何をしていらっしゃるのですか?」

ありす「ブラックコーヒーを飲んでいました」

桃華「ブラックコーヒー……!」

桃華「ありすさんはブラックコーヒーが飲めますの!?」

ありす「飲めるかなぁ、ってチャレンジしていたんですけど、ダメでした」

桃華「そうでしたのね……」




櫻井桃華(12)






桃華「わたくしも前に、夜更かしをしようと思いまして、ブラックコーヒーを飲んだことがありますわ」

ありす「本当ですか?」

桃華「ええ。お砂糖もミルクも入れず、熱いままの一杯を」

ありす「すごい……!」

桃華「でも、結局は眠くなってしまって……」

ありす「なるほど」




桃華「コーヒーに眠くならない効果があるなんて本当なのでしょうか?」

桃華「あんなに苦労して飲んだのに、効果が感じられませんでしたわ!」

ありす「もしかして、効果が出ないくらい桃華さんが疲れていたとか」

桃華「どうでしょう……たしかにお仕事をした日でしたけれど」

桃華「ただ、徒労に終わった事実は変わりませんわ」




ありす「ではコーヒーを飲み干した先輩として、どうぞお手本をお願いします!」

桃華「えぇっ!?」

ありす「私は一口しか無理でした。まだありますから、どうぞ。ちょっとぬるいですが」

桃華「でも……」

ありす「お願いします!」

桃華「……わかりましたわ」

ありす「どうぞ、ぐいっと」




桃華「いただきます……えいっ!」

ありす「す、すごい……一気に全部を……! たしかに少しずつ飲んでは苦さを感じてしまいますが、何という……」

桃華「……」

桃華「!?」

桃華「〜〜〜〜〜〜!?」

桃華「ぁぅ」

ありす「まぁ、そうなりますよね」




桃華「まずいですわ!!」

ありす「ブラックコーヒーですから」

桃華「眠気どころか、逆に疲れましたわ……」

ありす「ありがとうございます。参考になりました」

ありす「少しでも多くても、結局苦いものは苦いから、躊躇せずに一気に飲む! これですね!」

桃華「お役に立てたのでしたら……飲んだ甲斐がありましたわ……」




桃華「どうしてコーヒーを飲もうとしていたのですか? この後用事でも?」

ありす「違います。ブラックコーヒーが難無く飲めるか試してみたくなって」

ありす「ほら、私も桃華さんももう12歳じゃないですか?」

ありす「そろそろコーヒーくらい飲めるようになりたいなぁ、なんて」

桃華「ありすさん……素晴らしいですわ!」

桃華「わたくし、そんなことまで考えが回りませんでした!」

桃華「今まで紅茶ばかり飲んでいましたが、やはりコーヒーもレディーのステータスとして必要ですわね!」




ありす「頑張ってみようと思ったのですが、コーヒーだけはなかなか……のどを通りません……苦いです……」

桃華「この際お砂糖に頼ってみてはいかがでしょう?」

ありす「それはダメです! 甘くして苦味をごまかすのは邪道です!」

ありす「苦いブラックを、涼しい顔で飲んでこそカッコイイんです」

ありす「あと、少し調べてみたのですが、お砂糖を入れるとカフェインの眠気覚まし効果がなくなるそうです」

桃華「なんということでしょう……」

ありす「ブラックはブラックで飲まなければいけない。悲しい宿命です」




桃華「ありすさん。ひとつ提案が」

ありす「はい」

桃華「どうすればブラックコーヒーもおいしく飲めるのか、皆さんに聞くというのはどうでしょうか?」

桃華「所属しているアイドルの皆さんはわたくし達より歳も上ですし」

桃華「Pちゃまとかに聞いても良いアドバイスをいただけるかもしれませんわ」

ありす「なるほど、それは良いですね!」

ありす「時間が空き次第、聞いてみましょうか!」




飛鳥「それでボクに聞きに来たってわけだね?」

ありす「はい」

飛鳥「ボクはまだ14歳、キミ達とは日数換算で700日程度早くこのセカイへ来たにすぎない」

飛鳥「残念ながらまだまだ子供でね。有用なアドバイスができるとは思えない」

ありす「そんなことありません! 飛鳥さんは素敵な大人です!」

桃華「飛鳥さんのマニッシュな着こなしは事務所随一ですわ!」

ありす「今の私達には似合わないし着こなせない、そんなファッションの似合う大人です!」

飛鳥「そうかい? フフ、ありがとう。キミ達も、キミ達自身を輝かせる服を探すと良いよ」




二宮飛鳥(14)





飛鳥「さて、コーヒーの話だったね」

ありす「はい。飛鳥さんはよく飲みますか?」

飛鳥「飲むときは飲むって感じかな。大好きではないよ」

飛鳥「お茶とコーヒーなら、コーヒーのほうをよく飲んでいる」

桃華「そういえば、飛鳥さんは静岡県出身でしたわね?」

飛鳥「ああ。でも、お茶はそんなに好きじゃなくてね、代わりにコーヒーを飲んでいる」

桃華「地元名産のお茶は好きではないのですか?」

飛鳥「その辺は色々とね」




飛鳥「キミたちは静岡県の緑者消費量が、日本で何番目に多いと思う?」

桃華「一番生産していますから……」

ありす「消費もやっぱり一番ですか?」

飛鳥「正解。フフッ、これはちょっと簡単だったかな?」

飛鳥「想像の通り47都道府県でトップだよ。当然と言えば当然か」

飛鳥「じゃあ緑茶じゃなくて、コーヒーの消費量は何番目だろう?」

ありす「コーヒー……」

桃華「お茶が一番だからコーヒーも一番、ってことは無いですわよね……」




飛鳥「さすがにこれは難しいか」

飛鳥「静岡のコーヒー消費量は47都道府県中、46位だ。ちなみに紅茶だと43位とかその辺」

ありす「結構下なんですね」

飛鳥「コーヒーとか紅茶とかより緑茶なんだろう。一大産地だし」

飛鳥「つまりコーヒーはあまり飲まない地域ってわけだよ」

桃華「でも飛鳥さんはお茶が好きではないと」

飛鳥「そうだね。ここからは本題だ」




飛鳥「みんなが緑茶を飲むからこそ、逆にボクはコーヒーを飲むんだよ」

飛鳥「いや、むしろコーヒーが飲まれていないからこそ飲んでいる感じだろうか」

飛鳥「他の人がお茶だから自分もお茶……みたいな同調は好きじゃなくてね」

飛鳥「言うなれば……」

飛鳥「マイノリティによる、マジョリティへの一種の反抗とも捉えることができる」

ありす「?」

桃華「?」

飛鳥「二人もボクくらいの歳になるとわかるさ、きっとね」




※二人のリアクション(イメージ映像) http://i.imgur.com/BBae88c.jpg




飛鳥「だから、ボクの場合は好きとか嫌いで天秤にかけていないのさ」

ありす「意地とかそういうのでしょうか?」

飛鳥「そういう見方もあるかもしれない」

飛鳥「ボクがボクであり続ける限り、コーヒーを手放すことはないだろう」

飛鳥「枷、かもね。そのような土地に生まれてしまった自分への……咎みたいなもの」

桃華「なるほど……」

ありす「わかったようなわからないような……」




飛鳥「実を言うと、ブラックコーヒーはボクもそこまで飲めるわけじゃなくてね」

飛鳥「いつもはガムシロップを入れて甘くしてから飲んでいるんだ」

飛鳥「苦味を避けるのはヒトの生存本能だから、仕方無いのさ……」

桃華「では飛鳥さんもわたくし達と同じですわね!」

飛鳥「言っただろう? ボクもまだまだ子供だって」

ありす「それでも飲み続けている飛鳥さんはさすがです!」

飛鳥「いや、キミの言った通りの意地だよ。斜に構えている時点で、既にね」




飛鳥「あぁ、そうだ。ひとつだけアドバイスを」

ありす「はい、何でしょう?」

飛鳥「エスプレッソだけは興味本位で口にしないほうが良い」

桃華「なぜですの?」

飛鳥「とても飲めたものじゃないよ」

飛鳥「あんなものが好きな人は、気取り屋かマゾくらいじゃないかってボクは思うね」

ありす「エスプレッソ……ですか。わかりました。わざわざありがとうございます」




ありす「飛鳥さんはコーヒーは飲むけどガムシロップを入れる、と」

桃華「生存本能がどうというのはいまいちわからなかったのですが、ありすさんはわかりましたか?」

ありす「いえ、さっぱり」

ありす「飲む上で、意地がステータスになっているのはわかりました」

桃華「わたくし達ももう少し大人になればわかるのでしょうか……」




雫「コーヒーのおいしい飲み方ですかー?」

ありす「はい! 何かアドバイスありませんか!」

桃華「雫さんはわたくし達よりも落ち着きがあって、とても大人っぽいので何かご存知かと!」

ありす「あと、色んな部分が大人なので! 胸とか!」

桃華「胸とか!」

雫「そうですか? えへへー、なんか嬉しいですねー♪」




及川雫(16)






雫「でもごめんなさーい。私もあまりコーヒー飲まないんですよー」

桃華「ちなみによく飲む飲み物は?」

雫「牛乳ですねー♪」

ありす「やっぱり……」

雫「牛乳以外だと……飲むヨーグルトも昔からずぅーっと飲んでいますねー」

ありす「やっぱり……!!」

雫「牛さんがくれるものは全部好きです♪ もー♪」




雫「ただのコーヒーよりも、牛乳を入れたコーヒー牛乳のほうが良いですよー」

雫「汗をかいた後のコーヒー牛乳はとってもおいしいんですー」

ありす「わかります。スポーツドリンクよりも甘いコーヒー牛乳のほうが体にしみますよね」

桃華「お風呂上りに感じるコーヒー牛乳のおいしさは、日本人の遺伝子に刻まれているに違いありませんわ」

雫「牛さんからいただいたものを、人間を経て、大地に還る……」

雫「牛さんの命の息吹を感じますねー」

ありす「雫さんがすごく哲学的なことを……!」




桃華「できれば牛乳を使わない方法でコーヒーを飲みたいのですが、何かありませんか?」

雫「もしかして、牛乳がそんなに好きじゃないとかですかー?」

ありす「いえ、好きですし飲んでいます! 毎日!」

桃華「飲んでおりますわ! きっちり毎日!」

ありす「雫さんみたいになりたいですからね」

桃華「至上の目標ですわ」

雫「そうですかー? ありがとうございますーえへへー♪」




ありす「今は、どうしたらブラックコーヒーでもおいしく飲めるのか、その方法を探していまして」

桃華「お砂糖なども混ぜない飲み方で考えておりますの」

雫「牛乳もダメなんですかー?」

ありす「はい」

雫「生クリームもですかー?」

桃華「それら以外で」

雫「残念ですー……」




雫「じゃあじゃあ、あれはどうですかねー」

雫「バニラアイスとかー」

ありす「バニラアイス? コーヒーフロートにするってことでしょうか?」

雫「じゃなくてですねー、バニラアイスにコーヒーをこう、バシャって感じにー」

桃華「あぁ、アフォガートということですわね」

ありす「何ですかそれ?」

桃華「バニラアイスにお酒やコーヒーをかけたデザートのことですわ」




雫「ほら、こうするとコーヒーに混ぜていないですよー」

ありす「えっ? あ、まぁそうなりますけど……」

雫「やっぱりダメですかねー……」

桃華「そんなことはありませんわ。牛乳大好き雫さんならではのアイディアだと思います」

雫「そんなことないですよー」

雫「でも、牛乳もアイスも、やっぱり牛さんから生まれたものは何にでも合いますねー♪ もー♪」




ありす「雫さん……すごいですね……」

桃華「胸が?」

ありす「胸もですけど、発想が」

桃華「同感ですわ」

桃華「コーヒーに混ぜるのがダメなら、コーヒーを混ぜれば良いという答え。予想外でしたわ」

ありす「逆転裁判並みの逆転した発想だと思います」

ありす「アフォガートはおいしそうなので今度やってみますね」




ありす「私は今まで、雫さんのことをおっとり天然さんだとばかり思っていましたが」

ありす「実は策士なのではないでしょうか?」

桃華「いえ、それは違うと思いますわ」

桃華「天然だからこそ、素でその発想が出てくるのでしょう」

桃華「雫さんからは大物オーラを感じますわ」

ありす「大物……そうですね、胸が」

桃華「ええ……胸が」




珠美「コーヒー?」

ありす「はい! たまちゃんさんなら、何かご存知なのかもしれないと!」

桃華「一応16歳で高校生のたまちゃんさんであれば、きっと大丈夫だろうと!」

珠美「一応って……」

ありす「たまちゃんさん、お願いします!」

桃華「お願いしますわ、たまちゃんさん!」




脇山珠美(16)






珠美「待って。ちょっと待ってください」

桃華「はい」

珠美「さっきからその、たまちゃんさんって誰ですか? 珠美のことですか!?」

ありす「やっぱり珠美さんは、こう呼んだほうがしっくりくる気がして」

桃華「『珠美さん』よりも『たまちゃん』って雰囲気ですので」

珠美「小学生に馬鹿にされた!?」




珠美「珠美は……ち、ちびっこちゃうし……!」

桃華「わたくしは145cmですわ」

ありす「141cmです」

珠美「ひゃ……145cm」

ありす「やっぱりたまちゃんさんは高校生という気がしませんね」

桃華「むしろ同級生ですわ」

珠美「ひどい! 小学生と同列視された! 高校生なのに!!」




ありす「そんなたまちゃんさんは、よくコーヒーを飲みますか?」

珠美「どちらかと言えばお茶を」

桃華「そうでしたか……」

ありす「たまちゃんさんは私達よりも大人なので、ブラックコーヒーもすんなり飲めていると思ったのですが……」

桃華「おいしく飲む方法も知っている気がしたのですが……」

珠美「……」




珠美(こ、これは、珠美が人生の先輩として頼られているっ!?)

珠美(しかし、ピンチです! ブラックコーヒーなんて飲んでいません!)

珠美(だって苦いですし、アレ……)

珠美(あんな苦いもの口にできるような代物じゃありませんよ)

珠美(珠美は鍛錬の後は、熱い緑茶の一杯が日課ですから!)

ありす「たまちゃんさん、どうかしましたか?」

桃華「難しい表情になっておりますわ」




珠美「の、飲んでいますよ! コーヒー!」

ありす「え? でも、さっきお茶って」

珠美「いやいやいやいや! お茶も、コーヒーも、どっちもってことです!」

珠美「毎日ガッブガブですから! だって高校生ですからね!」

桃華「本当ですの?」

珠美「いやもう本当に! 竹刀賭けても良いですよ!」




ありす「では、ブラックコーヒーのおいしい飲み方を教えてください!」

珠美「あー、はい。ブラックですね?」

珠美「えー、んー、ごほん」

珠美「珠美にとっては日常の動作はすべて鍛錬なのです!」

珠美「コーヒーも小細工無し! 苦くても、そのままぐいっと!」

珠美「まぁ高校生ですし? 修行や鍛錬以前に飲めて当たり前です!」




珠美「お二人には申し訳ありませんが、珠美にとってコーヒーとはそのままいただくものであり……」

珠美「えーっと、そう! 何も入れないのが一番おいしいのです!」

桃華「お砂糖も?」

珠美「入れません!」

ありす「ミルクも?」

珠美「もちろん!」



ありす「たまちゃんさん、ではなくて珠美さん」

珠美「はい!」

ありす「汗すごいですね」

珠美「はぇ!?」

桃華「視点があっちこっちに動いていますわね」

珠美「は、ははは……」




珠美「嘘つきました。すいませんでした」

珠美「珠美は根っからの緑茶派です。それとジュース。あと牛乳」

ありす「珠美さん……」

桃華「飲まないからといって馬鹿にするわけではないのですから、そんな見栄を張らなくても」

珠美「正論です……」

ありす「小学生に正論言われる高校生とか情けないですよ」

珠美「ごもっともです……」




珠美「お砂糖もミルクも無くブラックコーヒーを飲むなんて」

珠美「苦行ですよ苦行!」

珠美「日本人ならお茶! かつて武芸を磨いた先人達も、昔からお茶を飲んでいましたし!」

桃華「飛鳥さんとは逆の意見ですわ」

ありす「たしかに、緑茶は何も入れなくてもおいしいですからね」

桃華「聞いた話によりますと、日本以外では緑茶にお砂糖を入れて飲むのが一般的らしいですわ」

ありす「えー……」

珠美「なんてことを……緑茶は……緑茶のままが一番おいしいのに……!」




ありす「雫さんにもうかがったのですが、コーヒーは飲まないそうです」

珠美「やっぱり! 年齢関係無くコーヒーを飲まない人もいるんですよね、うんうん!」

桃華「代わりに、昔からずっと牛乳ばかりを飲んでいたそうですわ」

珠美「ぎ、牛乳……」

珠美「何故だろう。雫さんが言うとすごい説得力があるのは」

桃華「そうですわね……」




珠美「た、珠美には、胸なんて必要無いですし!」

珠美「スポーツにおいては胸があっても不利なだけですし!」

珠美「まぁ、身長差で試合開始と同時に、面で一本取られることはありますが……」

珠美「牛乳を飲んでいるのは、身長のためですよ! 決して胸のためではないですよ!」

珠美「一に鍛錬、二に鍛錬! 剣道こそ第一!」

ありす「そのことですが……」

ありす「前にちょっと調べたことがあって。タブレット見てください」




珠美「これは……運動とからだの健康についてのサイト?」

ありす「抜粋して読みますね」

ありす「ここです。『成長期の過度な運動は、身長の伸びを妨げる』」

珠美「えっ」

ありす「『激しい運動は女性ホルモンの分泌が乱れ……』」

ありす「ええと……『胸が大きく成長しなくなる』と」

珠美「……」




珠美「武を極め、理想の身体も手に入れて、なおかつトップアイドルに」

珠美「……そんな欲張りな願い、無理だとわかっています」

珠美「何かを成し遂げるためには、まず何かを捨てなければ!」

珠美「不肖珠美! 胸を諦め、剣道とアイドルに努めます!」

珠美「それが茨の道とても……」

桃華「珠美さん……すごい覚悟ですわ……」

珠美「あ、でもやっぱり胸も身長も欲しい! だってほら、全部あったほうがアイドルとして見てもらえますし!」

ありす「今のが無ければ格好良かったのですが……」

珠美「えぇっ!?」




ありす「途中から激しく脱線してしまいましたね」

桃華「しかも脱線したほうの話が盛り上がりましたわ」

ありす「結局、コーヒーの飲み方についてはわかりませんでしたが」

ありす「そうじゃない部分でひとつ、わかったことがあります」

桃華「わかったこと?」

ありす「適度な運動と牛乳は重要だということです!」

桃華「そ、そうですわね!」

ありす「未来が私達を待っていますよ!」




まゆ「ブラックコーヒーの飲み方?」

桃華「まゆさんも何か知っておりませんか?」

ありす「正直、ある意味今回はまゆさんが本命です!」

まゆ「そうなの? ありがとう♪」

ありす「他の方々からも色々アドバイスはいただいたのですが」

桃華「一番有用だったのは、雫さんの“アイスにコーヒーをかける”でした」

まゆ「アイスに? うふふ、雫さんもなかなかオシャレさんなのね♪」




佐久間まゆ(16)







まゆ「私もコーヒーは砂糖やミルクを入れるけど、それよりもブラックのまま飲むことが多いわねぇ」

ありす「本当ですか!?」

桃華「大人ですわ!」

まゆ「別に大したことじゃなから大丈夫よぉ」

まゆ「クッキーとか、ケーキとかの甘いお菓子と一緒に食べれば良いの」

ありす「一緒ですか」

まゆ「そう、簡単でしょう?」




まゆ「甘いお菓子を食べてから少しコーヒーを飲むと」

まゆ「口の中が甘くなった後に、ブラックのほど良い苦味がのどを通って……」

まゆ「味のバランスが良くなるから、コーヒーもおいしく感じますよぉ♪」

ありす「甘いもの! その考えはありませんでした!」

桃華「今度試してみましょう!」

ありす「いえ、今度と言わず今やってみましょう!」

桃華「でも、甘いお菓子なんて今は……」

ありす「いや、あるんです」

ありす「冷蔵庫に……プチプリンゼリーが!」







※前回のネタ再利用




桃華「コーヒーを煎れてまいりましたわ」

ありす「ありがとうございます、桃華さん」

桃華「まゆさんも、おひとついかがです?」

まゆ「良いの? じゃあ、一杯だけ貰おうかな」

ありす「桃華さん! はやくやってみましょう!」

桃華「待ってくださいまし。今ポットを戻してきますので!」

まゆ「二人とも楽しそうねぇ……♪」




まゆ「どう?」

ありす「お菓子の甘さとコーヒーの苦さの加減がちょうど良いです!」

桃華「コーヒーもブラックなのに、あまり苦に感じませんわ♪」

ありす「欲を言えば、まゆさんの言った通りクッキーやケーキのようなスイーツでいただきたいところですが……」

桃華「であれば、今度ケーキを持参いたしましょうか?」

ありす「良いんですか!?」

桃華「ええ。別のお菓子でも試してみたいですし」

ありす「これは気分が高まります!」




まゆ「がぶ飲みしちゃうとさすがに苦さが勝っちゃうんだけど、少しずつ飲めばどんなお菓子にも合うの」

まゆ「桃華ちゃんは紅茶をよく飲むのよね」

桃華「そうですわ♪」

まゆ「紅茶に合うお菓子は、全部コーヒーにもピッタリなのよ?」

桃華「スコーンもですの?」

まゆ「うん♪」

ありす「イチゴもですか?」

まゆ「イチゴ……は試したことないけど、甘いから合うんじゃないかな?」




まゆ「これが参考になったのなら良いけど……」

ありす「そんな、今まで聞いた方の中で一番のアドバイスでしたよ!」

桃華「ありがとうございます!」

まゆ「もう、大げさねぇ。私はコーヒーの飲み方を教えただけよ?」

ありす「いえいえ、今の私達にとっては非常に大きな問題なので!」

桃華「大人になるために必要なことですの!」

まゆ「大人に? そういえば、二人はどうしてコーヒーを飲みたがっていたの?」




ありす「私も桃華さんも12歳ですから」

ありす「そろそろ甘くないホットなブラックコーヒーを、クールに飲みたいと覆いまして」

桃華「やはり紅茶よりも、コーヒーのほうがレディーな感じがしますわ!」

まゆ「あぁ、なるほど。それでみんなに聞いていたのね?」

桃華「唐突なのに、皆さん親切に教えてくださいましたわ♪」

ありす「中には意地と気合で飲んでいる方もいまして、それはそれで参考になりました」

まゆ(誰だろう? 意地だから珠美さんかな?)




ありす「まゆさん、ひとつ良いですか?」

まゆ「なあに?」

ありす「まゆさんがブラックコーヒーを飲めるようになったきっかけが知りたいです」

まゆ「きっかけ、ねぇ。きっかけと言うほどのことも無いんだけど」

まゆ「……いえ、そうね。私もありすちゃんたちと同じかも」

ありす「大人になりたかったのですか?」

まゆ「うん。どうしても背伸びがしたくて」




まゆ「私の……憧れの人、って言えば良いかな? その人はよくコーヒーを飲んでいてね」

桃華「もしかして、まゆさんの好きな方でしょうか!?」

まゆ「ふふっ、どうかしら♪」

ありす「おぉー!」

まゆ「ほら、私って勢いで読者モデル辞めて事務所に入ったから」

まゆ「ちょうどその頃はアイドルになったばかりで、自分がアイドルとしてやっていけるか悩んでいたんだけど……」




『不安な気持ちになったら、一旦落ち着くのが重要だ』

『こうやって喫茶店でコーヒー飲んで一息入れる。俺の場合、それが一番落ち着くから』

『なんかさ……ほっとするんだよね。まぁいいや、みたいになる感じ?』

『何か心を楽にさせること、好きなことをすれば良いさ』

『やってない、結果が出ていないことはみんな不安だ。だからこそ気を楽にして、とりあえずやってみようよ!』




まゆ「要は、当たって砕けろ! ってことだったんだけど」

まゆ「じゃあどうすれば心が落ち着くのかな、って思って。同じようにコーヒーを飲んでみたの」

桃華「どうでした?」

まゆ「苦かった。当たり前よね、コーヒーだもん」

まゆ「だけど、あたたかいコーヒーを飲んだらスッキリした」

まゆ「あの人がコーヒーを飲んで落ち着くっていうのはこんな気持ちなんだなぁ、って」




まゆ「その後は、コーヒーを飲んでいるとあの人に近づける気がして……それで飲んでいるかな?」

ありす「ロマンチックなお話です!」

桃華「コーヒーとその方の存在が、まゆさんの原動力なのですね!」

まゆ「うふふ♪ そういうことでも、人が頑張れるのよ♪」

ありす「いつか、私達もコーヒーの似合う大人になりたいです!」

まゆ「私だってまだ16歳よ? まだまだ大人には遠いんだから」

ありす「まゆさんは充分大人オーラが出ています。目標です」




ありす「甘いお菓子と一緒に食べるのは良いアイディアでしたね」

桃華「さすが、まゆさんですわ♪」

ありす「これで一応の目標は達成しましたけど……」

ありす「Pさんにも話を聞いてみましょうか?」

桃華「それも良いですわね。もしかしたら、もっと有用なアドバイスも聞けるかもしれませんし」




モバP「えっ、コーヒー?」

モバP「何、二人ともコーヒー飲みたいの?」

桃華「そうですわ♪」

ありす「皆さんに色々聞いて解決したのですが、せっかくなのでPさんにもついでに聞いておこうかと」

モバP「ついでって、俺はオマケかよ……」

モバP「たしかにコーヒーはよく飲んでいるけどなー」




モバP「俺はコーヒー飲むときは基本ブラック。砂糖無し。ミルク無し」

ありす「一緒にお菓子類などは?」

モバP「それも無し。コーヒーはそのままが一番苦くてうまい」

桃華「やせ我慢とかでしょうか?」

モバP「やせ我慢してまでコーヒー飲んでいる人は、すぐカフェオレに切り替えたほうが良いと思う」

モバP「あの苦さが良い。あっついブラックコーヒーは良いぞ〜」

ありす「そのままが一番だなんて……」

桃華「あんなに苦いのに……」




モバP「ははーん」

ありす「はい?」

モバP「若い子は、舌にある味を感じる部分が敏感で」

モバP「苦いものはより苦く、すっぱいものはよりすっぱく感じるらしいんだよねー」

ありす「なんですか、私達は子供なんだって言いたいんですか?」

モバP「いいや、子供なんて言ってないぞ。若いって言ったんだ」

桃華「似たような意味ではありませんか」

モバP「違うなぁ。若いは褒め言葉だが、子供はけなしている表現だからな」




モバP「二人がとにかくブラックコーヒーを飲みたがっているのは、おおよそ察しが付く」

モバP「あれだろう? 飲めれば大人っぽいとかだろう?」

ありす「うぐっ」

桃華「正解ですわ……」

ありす「どうしてわかったんですか!?」

モバP「二人がそこまで躍起になるのは、そういう理由なんだろうなって」

モバP「苦いものは苦いんだし、そんな無理しなくて良いんだよ。酒と同じで、大人でもコーヒー嫌いな人もいるんだから」




モバP「さっきの舌の話をさらに掘り下げるとだな」

モバP「味を感じる部分は歳を取ると少しずつ劣化してくるんだ」

モバP「ほら、昔嫌いだったニンジンやピーマンが大人になって普通に食べられるようになった、なんて話を聞かないか?」

ありす「あぁ、はい。結構聞きますね」

モバP「あれは子供の頃に不味く感じていたのが、マイルドな感じ方に変わってきたんだ」

桃華「そういうことでしたのね」

モバP「そういうと聞こえは良いんだよなぁ。聞こえは……」




モバP「味覚が変わるというのは“大人になった”ということだけど」

モバP「言い換えれば“歳を取った”や“老けた”と同義になる」

ありす「!」

桃華「!」

モバP「その辺をどう解釈するかは人によるけどな」

モバP「『大人ってのは、なろうとおもってなれるものじゃない。ただ、子供でいられなくなるだけのこと』って仮面ライダー鎧武でも言っていたじゃん?」




モバP「コーヒーなんか飲めなくても良いんだよ。俺は飲むけど」

ありす「Pさんはいつからコーヒーが大丈夫に?」

モバP「子供の頃は苦くて好きじゃなかったけど、気付いたら大丈夫になっていた」

モバP「今は一日に軽く一杯くらいは日課で飲んでいるよ」

モバP「疲れたときに飲むと、ほっとするんだ。まぁいいや、みたいに不安とかもぶっ飛んでくれる」

ありす(ん? 今のフレーズどこかで……)




モバP「つまり、そのうち慣れるってことさ。舌が大人になればな!」

ありす「あっ、やっぱり馬鹿にしていたんじゃないですか!」

桃華「ひどいですわ!」

モバP「いやいや、若いことを褒めたんだぜ?」

ありす「Pさん!!」

モバP「はっはっは。ほら、明日撮影あるんだから、帰るぞ。ちょっと車回してくる」

桃華「もう、Pちゃま! 聞いてくださいまし!」




後日 喫茶店


ありす「結局あの後、Pさんには煙に巻かれてしまいましたね」

桃華「そうですわね」

桃華「結論としては、まゆさんもPちゃまも、そのうち味に慣れたということですが」

ありす「それまでは甘いお菓子とのセットが必須ですね」

ありす「なんか、舌が子供だって認めるみたいで悔しいです……」

桃華「ブラックコーヒーが好きになったら、Pちゃまを見返して差し上げましょう!」

ありす「はい!」




桃華「それはそうと、こちらが先ほど注文したエスプレッソというものですわ」

ありす「飛鳥さんが言っていたものですね」

ありす「……カップ小さくないですか?」

桃華「そう思いましたが、小さいほうが何やら高級感を感じませんか?」

ありす「言われてみれば……」

桃華「量にこだわらずに、質を追求。大人を感じますわ!」




ありす「香りはブラックコーヒーみたいですね」

桃華「同じように苦いのかもしれませんが、このくらいでしたら」

ありす「はい。これくらいのサイズなら、多少苦くても飲めますね!」

桃華「甘いものに頼らない練習にもなりますわ」

ありす「では、いただきます!」




ありす「……」

桃華「……」

ありす「……!!」

桃華「……!?」

ありす「もう、なんというか」

桃華「苦いですわ……」




――fin――

 


 SS速報VIPに投稿したモバマスSS九作目。
 このSSに出てきた6人が、当SSの事務所に所属している全メンバーとなります。ようやく全員出せた。

 コーヒーの場合ははですね、ブラックでよく飲みます作中でありすが言っているように、ブラックじゃないと眠気覚ましにならないので。あと苦いの好きなので。
 (最近の研究だと、日本人にはカフェイン耐性があるとか無いとか。つまりコーヒーの眠気覚ましはプラシーボ効果?)
 エスプレッソは、もう何も入れずにグイっと飲みます。苦いのが好きなんですよ。

 まとめサイトのコメント欄で「ミルクさえ入れなければ砂糖が入っていてもブラック」という解釈もあるとも言われましたが
 今回は一般に言われている何も入れない状態のコーヒーというニュアンスで使用しております!

 

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