輝子「キ、キノコスイーツ……?」 ありす「はい」





モバP「戻りました、お疲れ様です」

ちひろ「お疲れ様です、Pさん」

ちひろ「あっ、さっきPさんが出ている間に輝子ちゃんが来たんですけど」

モバP「輝子が? たしか今日はオフのはずですよね?」

ちひろ「はい。特にスケジュール上は何も無いのですが……」

ちひろ「机の下を貸してほしいとのことだったので、今はPさんの机のところに」

モバP「わかりました。まぁ、下にいてもデスクワークの邪魔にはなりませんから」




モバP「よいせっと」

モバP「やあ、輝子」

輝子「フヒ……P、お疲れ様」

モバP「お疲れ様。今日は仕事も特に無いけど、何か用事でも?」

輝子「用事は別に、な、無いかな。ここは……いると落ち着くから」

モバP「狭いところが落ち着く気持ちは同意だが、やっぱり机の下っていうのはちょっと狭すぎじゃない?」

輝子「これくらいがね……1番良いんだ……」

モバP「そういうものか」




星輝子(15)






モバP「今からパソコン仕事やるけど大丈夫?」

輝子「あんまり、邪魔にならないように、する……」

モバP「いつも通りにしていて構わないよ。俺もあんまり足動かさないようにするから」

輝子「優しいな……やっぱりPは、し、親友だ……」

モバP「昔と違って、今は輝子も親友がいっぱいじゃないか」

輝子「そうだけど……で、でも、1番はPだから……フヒ」

モバP「1番かぁ、嬉しいな」




輝子「P、あのさ……」

輝子「あっ、ごめん。仕事の邪魔だよね……」

モバP「大丈夫だぞ。どうした?」

輝子「Pは……今まで、いつも自分が考えていたりやっていたりしたけど、それが本当は間違っていたのかも……って、思ったこと無い?」

モバP「うー……ん?」

輝子「うまく伝えられない……む、難しい」

モバP「もしかして、何か悩み事があるのか?」

輝子「悩み、なのかな。自分でもよくわからない……」




モバP「悩みがあるなら、話せる範囲で話してもらいたい」

モバP「担当アイドルが不安でいっぱいの状態なんて、俺は心配だよ」

輝子「で、でも」

輝子「その……気にするほどでも、無いし」

モバP「1番の親友にも話せないような感じの話題なのか?」

輝子「ううん……だけど、ほら。お仕事中だし……」

モバP「構わないって。むしろ、そんな輝子のことが気になって仕事が手につかなくなる」

輝子「そ、そう? だったら……たいしたことでは無いんだけど、この間……」




――――――――――――――――――――――――――――


数日前 事務所


輝子「エリンギ〜……マイタケ〜……ブナシメジ〜……♪」

輝子「ン〜♪ ンフ、ンフ♪」

輝子「ほら、お水だぞー……霧吹きでかけてやるからなぁー……フヒ」

輝子「あぁ、そういえば、部屋のシイタケ原木クン12と原木クン13が……そろそろ天地返しの時期だ」

輝子「へ、へへ……。帰ったら……」

かな子「輝子ちゃん!!」

輝子「フヒィッ!?」




輝子「か、かな子さん……」

かな子「おはよう輝子ちゃん!」

輝子「お、おは、おはよう」

かな子「あのね、みんなで食べようと思ってクッキーを焼いてきたの。一緒に食べよう?」

輝子「いいの?」

かな子「うん!」

輝子「じゃあ……食べる。あぁ、今日いないお隣りさんにも、いくつかもらって良い?」

かな子「いっぱいあるから、遠慮なくどうぞ♪」

輝子「あ、ありがとう。フヒヒ……」




加奈「わぁ、おいしそうなクッキーですね!」

かな子「今日はトッピングにこだわってみたの。ドライフルーツとか」

加奈「カラフルでカワイイです! あとで作り方をメモしたいんですけど、いいですか?」

かな子「いいよ♪ 加奈ちゃんも家で作ってみてね♪」

加奈「やったー! えへへ♪」

かな子「ちひろさんもどうぞ♪」

ちひろ「ありがとう。今ちょっと手が話せないから、もうちょっと経ったらいただくわね」




三村かな子(17)



今井加奈(16)






輝子「おぉ……おいしそう」

かな子「遠慮なくどうぞ♪」

輝子「うん……。じゃあ、これを……あむっ」

輝子「……!」

加奈「輝子ちゃん?」

かな子「あれ、どうしたの?」

輝子「……ヒ」

輝子「ヒャッハアァァァァーー!! うめぇぇぇぇーー!!」




輝子「すいません、取り乱しました。すごくおいしいです。はい」

かな子「あ、あはは」

加奈「輝子ちゃんは今日も絶好調だね☆」

輝子「かな子さんの、お菓子は……すごい。げ、元気になる」

輝子「ここに……Pがいないのが、残念かな……」

かな子「Pさんには、あとで小分けにして渡すから大丈夫だよ♪」

輝子「フヒ……それなら、Pも喜ぶ。お隣りさんも、喜ぶ」




輝子「あと、これ。この緑のやつ。カワイイね……」

輝子「まるで……あれだ、シイノトモシビタケみたいな」

加奈「それってキノコの名前?」

輝子「そう。めったに見ないけど、よ、夜になると緑色に光るんだ……」

かな子「光るキノコ!? すごーい!」

加奈「私も初めて知った! やっぱり輝子ちゃんはキノコ博士だねっ!」

輝子「フヒヒ……キノコは、トモダチだから。トモダチのことは、よく知っている……」

加奈「かな子ちゃん、この緑のは一体何のドライフルーツ? メロン? キウイ?」




かな子「それはね、ドライフルーツじゃないんだよ」

かな子「アンゼリカっていう名前の砂糖菓子で、実はフキなの!」

輝子「フ、フキ!?」

加奈「フキって……煮物とかに使う、あの植物のフキ?」

かな子「そう! フキをお砂糖で甘く煮て、緑に色付けしたお菓子なんだよ!」

輝子「へぇー……フキかぁ……」

加奈「全然わかんなかった! こういう感じのグミとかドライフルーツなのかと思った!」

かな子「ねー。私も初めて食べたときビックリしちゃった」






アンゼリカ




かな子「煮物とかで黄土色や茶色になるフキも、料理が違えばこんなにキレイな見た目になるなんて、すごいよね!」

加奈「かな子ちゃん! 作り方教えてください! メモします!」

かな子「これはお店で買ったもので、まだ私は作ったことないんだ……。あ、でも作り方はわかるから、お店の場所と一緒に教えてあげるね!」

加奈「はい、お願いします!」

かな子「ふふ♪ えっとね、作り方はフキを……」

加奈「ふむふむ」

輝子 (料理が違えば、見た目もこんなに……)


――――――――――――――――――――――――――――




モバP「あれはアンゼリカって名前だったのか」

輝子「Pも、知らなかった……?」

モバP「ああいう緑のゼリーみたいなトッピングがあるのは知ってたけど、名前まではわからなかった」

輝子「クッキーも……おいしかったよね?」

モバP「そりゃあもう! かな子のお菓子は本当にうまいよな!」

輝子「食べると、心が……ウキウキする」

モバP「そう。うまいだけじゃないんだよな。不思議」




モバP「いや違う違う。輝子の悩み事について話していたんだった」

モバP「さっきの話は、つまりどう関係しているんだ?」

輝子「う、うん……」

輝子「フキだって、料理によってはあんなにキレイになるのが、わかったけど……」

輝子「トモダチ……キノコは、どうなんだろう……」

モバP「キノコが?」

輝子「よくキノコ料理は作るけど、その……ただ炒めたり……煮たり」

輝子「出来上がりとかは、大体みんな地味な茶色で……」

輝子「も、もちろん、おいしいんだよ。おいしいよ……」




輝子「キノコ達だって、キレイに、カワイイ姿になりたいって思っているかもしれない」

輝子「でも、同じ料理なら……見た目や飾り付けがカラフルなほうが、食材達も喜ぶよね……!?」

モバP「うーん……」

輝子「……今まで、シイタケクンとかを大切に育てて……おいしく食べれば、それで良いと思ってた」

モバP「俺は、最終的においしく食べられればオッケーだと思うが」

輝子「そうかもしれないけど……うん……」




輝子「私は……Pと会うまでは、その、カワイイ衣装とか、化粧とか無縁で」

輝子「名前の字は“輝子”なのに、別にキラキラしていなかったし……」

輝子「でもアイドルになって、こ、こんなキラキラした世界もあるんだな、って……へへへ」

輝子「キノコ達にも……そんな世界を見せてあげたいなぁ……」

モバP「輝子……」

輝子「フ、フヒヒ。なんだか、自分でも支離滅裂になってきた。ははっ」

モバP「本当にキノコのことが大好きなんだな、お前は」

輝子「だって……トモダチだから、ね。大切なトモダチ」




ありす「だったら、やってみたら良いんじゃないですか?」

輝子「ふぇ?」

モバP「おわっ! ありす、お前いつからいたんだ……」

ありす「お仕事があるから来たのに、そんなリアクションしなくても」

ありす「いつ来たかと言うのなら、『キノコ達だって、キレイに、カワイイ姿に』くらいからですね」

モバP「ああ……意外と後のほうなんだな」

ありす「えっ、何か問題がありましたか?」

モバP「ここは最初付近からいて『最初からじゃねーか!』ってお決まりの展開になるのかと」

ありす「あんなベタなこと、漫画やアニメの中でしか起きませんよ」




橘ありす(12)






ありす「話の流れから大筋は掴めました」

ありす「つまり、キノコを……ステージに立つアイドルのように輝かせたいと、そうですね?」

輝子「そ、そう! そんな感じ!」

輝子「ありすちゃんには、あ、あれで伝わったんだね……よかった、フヒ」

ありす「もちろんですよ。私も料理は好きですから」

モバP「料理とイチゴならどっちが上?」

ありす「そこは僅差でイチゴに軍配が上がりますね」




ありす「いいですか輝子さん。チャレンジをしなければ始まらないんです」

ありす「キラキラなキノコ料理も良いと思うなら、どうしてそれをやらないんですか!」

輝子「だって……レパートリー多くないし、料理スキルも、そんなに……」

ありす「だったら、私と2人でやれば良いんですよ」

輝子「あ、ありすちゃんが……?」

ありす「私も料理スキルはまだまだ発展途上です。ですが、料理への思いは誰よりも強いと自負できます!」

ありす「料理は思いで作るんです。結果は後からついて来ます」




ありす「精一杯やれば、輝くスーパースターになれます。輝子さんもそうだったじゃないですか」

ありす「私と一緒に料理をして、キノコを彩りましょう」

輝子「マイフレンズを……」

輝子「……フヒ……フヒヒ。い、いいね……すごくいい。なんだか、出来る気がしてきた……」

輝子「ヒャッハァァァァ! マァァイフレェェェェンズ! 君達もスーパースターだぞぉッ!」

輝子「ジメジメから卒業だあッ! 期待していてくれッ!!」

輝子「へへ……うへへ……」




モバP「ありす」

ありす「はい?」

モバP「大丈夫なの?」

ありす「むっ……まるで大丈夫じゃないみたいな言い方をしますね」

モバP「だって、前に料理番組に出た時のイチゴスパゲティーとか……」

ありす「イチゴパスタです」

モバP「イチゴパスタとかあったし、任せろ! って自信持たれると、いかんせん不安な部分がだな……」

ありす「あれはたしかにやり過ぎた感はありましたが、人間は失敗を踏み越えて進む生き物ですから」




輝子「シイタケクン〜♪ 地味な料理からはオサラバだぞ〜♪」

輝子「あ、いや、違う。ゴメン……シイタケクンが地味って意味じゃなくて……」

輝子「み、みんなも、輝けるんだよ……! スターみたいに!」

輝子「ステージに立ったり……CD出した……今の、私みたいに……」

輝子「ンフ、ンン、ンフフフ♪」

輝子「ハーッハハハハハー! そうだ、友よ! 人生は物語だッ! すべてはおとぎ話だーッ!!」




輝子「ありすちゃん……ほら、わ、わかるかな? この子達の、喜びが……」

ありす「わかります。その声援、たしかに受け取りました」

輝子「聞いたかァ!? マイフレンズゥゥ!! 楽しみだなぁぁぁぁハハハハハハ、ヒィヤッハァー!!」

ありす「輝子さんの予定が合うなら、今週末くらいにでも」

輝子「オッケェェェェイ!! 問題無し!!」

モバP「心配なんだよなぁ……」




ありす「そうと決まれば……輝子さん、今のうちにどういうものを作るか決めませんか?」

輝子「う、うん。でも、ありすちゃんは良いの? その……お仕事とか」

ありす「まだまだ時間はあります。そうですよね、Pさん?」

モバP「余裕は、一応あるけど」

ありす「ということなので大丈夫です」

輝子「そ、そっか、フ……フヒヒ……じゃあ決めよう」




輝子「私としてはシイタケクンを……」

輝子「あとは、できるなら、マ、マイフレンズの長所を生かして……」

ありす「わかりました。そうなると、まずイチゴを……」

モバP (……イチゴ?)

輝子「へぇ、それは盲点だった……。なら、エ、エリンギクンの場合だと……」

ありす「そこにはイチゴをですね……」

モバP (……2人が楽しそうで何よりだよ。うん)




その日の夜 寮内共有リビングスペース


輝子「楽しみだなぁ……週末が……」

輝子「あ、ありすちゃんと、考えた料理……イケる……フヒヒ」

乃々「キノコさん……なんかご機嫌な感じですか……?」

輝子「こんばんはぁぁぁぁボノノさぁぁん!! 別に私はいつも通りだよイッハー!!」

乃々「ま、まぁ、そのテンションはいつも通りですけど……」




森久保乃々(14)






輝子「あのさ……ボ、ボノノさん……」

乃々「なんですか……?」

輝子「週末に、キノコ料理をごちそうしたい……なんて」

乃々「料理?」

輝子「フヒ」

乃々「キノコさんのキノコ料理は……おいしいですよね……。前にごちそうしてもらった料理もおいしかったです……」

輝子「そ、そう言ってもらえると、嬉しい」




輝子「今回も、ボノノさん……どう、かな?」

輝子「予定とか……なんか、そういうやつ……」

乃々「特に何も……」

輝子「フヒヒ、じゃあ……い、1名様ご案内」

乃々「また、わざわざ作ってもらえるなんて、逆に申し訳無いんですけど……」

輝子「ト、トモダチのためなら、私はむしろどんどん作ってあげたいな」




輝子「それで、今回は、しゅ、趣向を変えて、新しい感じにする……」

乃々「新しい感じ……?」

輝子「いつもは炒めたり、煮込んだり……おいしいけど、そればかりだったし……」

輝子「マイフレンズ達がもっと……もっと目立てる料理に、する」

乃々「でもキノコさんの料理は、いつもキノコメインじゃないですか……?」

輝子「そうかも、しれないけど……それだけじゃダメなんだ……」

輝子「キノコ達の気持ちになってみるのですよ……フヒヒ」




美玲「あっ、キノコと手羽先じゃん。なんか楽しそうだな」

輝子「や、やぁ、美玲さん」

乃々「手羽先じゃないんですけど……」

美玲「ウチにとって乃々はもう手羽先だかんな。何着ても」

乃々「あれ1回しか着てないのに……ネタ引っ張られても困るんですけど……」

美玲「いーじゃん。チキンなところが鳥っぽいし」

乃々「どういうことですかそれ……」

美玲「あー、でも胸肉が少ないからチキンとしては及第点かなー」

乃々「そこは美玲さんだって大差無いんじゃないですかね……」

美玲「ウ、ウチはこれから猛獣並みになるんだよッ!!」




早坂美玲(14)






美玲「で、結局何か楽しい話でもしてたの?」

輝子「うん。週末にキノコ料理を……ふ、振る舞おうかなって、思って……」

美玲「手羽先に? いーなー、お前の作った料理うまいもんなー」

輝子「もちろん……美玲さんも、誘うつもりだった、フヒ……」

美玲「ホント? ウチにもごちそうしてくれるのか?」

輝子「もちろん……だって、トモダチだし」

美玲「キノコぉ! お前良いヤツだなぁ!」

輝子「そんなに喜んでくれるなんて、は、恥ずかしいな……」




輝子「今週末くらいを、考えていて……美玲さんは大丈夫?」

美玲「ウチは大丈夫だぞ!!」

乃々「ほ、他の人とかは来るんですか?」

輝子「一応誘ってみるつもり。小梅ちゃんとか……あ、あと幸子ちゃんも……」

輝子「料理は……みんなで食べたほうが、おいしいからね」

美玲「よーし、超楽しみにしているからな! 手羽先もそうだろう?」

乃々「はい……あと手羽先じゃないんですけど……」

輝子「フヒヒ……」




日曜日 寮内食堂 (朝)


ありす「ここが輝子さん達の女子寮の食堂ですか」

輝子「そ、そうだよ。平日はごはんが出るけど……日曜祝日は無くて」

輝子「その分、調理器具と……食材を持ち込めば、休日の調理場は好きに使って良いんだ……」

ありす「料理好きにはうってつけの環境ですね」

輝子「フヒヒ……私もよく、活用している」

ありす「ここで料理をしたら、それこそ有名店のシェフの気分になれそうです」

輝子「料理番組のシェフ姿……あ、ありすちゃん似合っていたよ」

ありす「本当ですか? ありがとうございます……えへへ」




ありす「確認なんですけど、今日料理を食べに来るのは乃々さんと美玲さんの2人ですよね?」

輝子「そう。さ、幸子ちゃんや小梅ちゃんも、誘ってみたけど、お仕事が入ってて……」

輝子「Pは……男の人を女子寮に入れるのは、寮則でダメだった……」

ありす「他の方々には、また別の機会に食べてもらえば良いんですよ。一生食べられないわけでもないですから」

ありす「ポジティブにいきましょう! 今日は食べてくれる人が2人もいます!」

輝子「た、たしかに! ポジティブに……ポジ、ポオオォォジティィィィブ!! イェアー!! センキュー!!」

ありす「それは……ポジティブとはまた違うような気も」

輝子「あれ? ち、違った?」




輝子「あ、あと、考えた料理だけど……私も食べてみたいんだ」

輝子「余分に作ってさ……私と、ありすちゃんも食べてみようよ……?」

ありす「ふふ、そう言われると思っていましたから、軽く4人分は作れる量を持ってきました!」

輝子「さすが……! あ、ありすちゃんは、有能だね!」

ありす「いえいえ、そんな。あとは、輝子さんの持つキノコを多少分けてもらえたら良いんですが……」

輝子「お、おぉ……! そうだ、マイフレンズ達がいないと、料理ができないもんな! ええと、なんだっけ。エリンギクンと……」

輝子「そういえば……ひ、冷やすのに時間がかかる料理も……あったよね? すぐに、採ってくるから」




輝子「はい、どうぞ……」

ありす「ありがとうございます。輝子さんのキノコって、改めて見ると市販品よりも立派ですね」

輝子「わ、わかる? 特にそのシイタケクンは、お、お気に入りの原木クン7から採った、最近で1番の出来なんだ……!」

ありす「……シイタケだけで一体いくつの原木があるんです?」

輝子「フヒヒ……いっぱい……。ありすちゃんも、原木とか、菌床とか……いる? 簡単だよ?」

ありす「そこまではさすがに……お気持ちだけ受け取っておきます」

ありす「さぁ、役者は揃いました! 始めましょう!」

輝子「マ……マイフレンズ、君達を、今から輝かせてみせるゼェェッー!!」




寮内 昼頃


美玲「手羽先ー。キノコから準備できたって連絡来たぞー」

美玲「……あれ、いない? それとも寝てるのかな?」

美玲「おーい、手羽先ー。いないなら返事しろー。ノックしてもしもお〜〜〜〜し!」

乃々「いますけど……手羽先じゃないんですけど……」

美玲「あ、いた。出かけたのかと思ったぞ」

乃々「今日はずっと部屋にいました……」

乃々「……あと、私にも準備できたって連絡は来ました」

美玲「なんだ、ウチが呼びに来る必要も無かったのか」




美玲「それなら、はやく行こう! 待たせるのは悪いからな!」

乃々「あう……」

美玲「どうした? 顔が悪いぞ?」

乃々「そこは顔色って言うべきだと思うんですけど……」

美玲「色素が薄いぞ」

乃々「ちょっと違いますけど、よく言われます……」

美玲「ウガーッ! なんなんだよ、はっきりしろ! 噛むぞッ!」

乃々「うぅ……」

乃々「インターネットで見た占いが……今日は乙女座の運勢がすこぶる悪いんです……」




美玲「はあ? 占いなんて、そんなの深刻になるものでも無いだろ」

乃々「でも、朝から今までコップに入ったお茶を3回こぼしました……」

乃々「応募しようとしていた少女マンガの懸賞の締め切りが昨日でしたし……」

乃々「録画したはずの番組のチャンネルも間違っていました……」

乃々「あと……」

美玲「全部オマエのうっかりミスじゃないか!」

乃々「言うなればそうかもしれないですけど……」

美玲「言うなればじゃなくて、確実にそうだって。キノコが待っているんだから行くぞ!」

乃々「あぁー……」




輝子「み、美玲さん。ボノノさん。こんにちは……」

乃々「あう……こんにちはキノコさん……」

美玲「こんちわー。お腹ペコペコにしてきたぞ」

ありす「空腹時のごはんはとってもおいしいですから、ぜひ満腹になっていってください」

美玲「……あれ? なんでありすがいるんだ?」

輝子「フヒ……き、今日はありすちゃんと、仲良く料理」

ありす「輝子さんと一緒に作りました」

美玲「えっ」

乃々「え……?」




乃々「美玲さん……あの、今日はキノコ料理を作ってもらっているはずですよね……?」

美玲「うん」

乃々「なんで調理場からお菓子みたいな甘いニオイがするんですかね……」

美玲「うん」

乃々「美玲さん?」

美玲「なあ、手羽先」

乃々「はい?」

美玲「あとで占いを見たサイトの名前教えてくれないか」

乃々「……部屋に戻ることができたら教えます」




美玲「一体どんな料理作ったんだ?」

ありす「あっ、もしかして気になります?」

乃々「はい……」

ありす「ふふふ、では輝子さんより発表していただきます」

輝子「こ、今回作ったのは、キノコと……イチゴのコラボレーション! 輝子流キノコスイーツ!!」

美玲「キノコ……」

乃々「スイーツ……」




輝子「普通の料理と違って、キ、キノコが主役の料理について悩んでいたら、ありすちゃんに、声をかけられて」

輝子「レ、レシピもね、ありすちゃんが……考えてくれたんだよ……!」

美玲「うわー、マジで。それは怖いなぁ」

ありす「美玲さん、いくらなんでもストレートにひどいんじゃないですか?」

美玲「だって……キノコ、オマエもありすが料理番組で何作ったか知っているだろ?」

輝子「う、うん」

乃々「見ただけでもう……」

美玲「やばかったよな……」

ありす「あの時はあの時、今は今です。人は成長する生き物なんですよ」




ありす「それに、これは輝子さんの願いでもありますから」

ありす「キノコは茶色とか黒とか地味で濃い色ばかりだから、せめて料理くらいは派手で目立てるようにしてあげたい……そんな真摯な願い事です」

ありす「私はそれに共感し、未熟ですがお手伝いしようと決めたんです!」

輝子「あ、ありすちゃんの情熱は、すごいから……。きっとやってくれると思って……」

美玲「キノコがそんなにまで言うなら……なあ?」

乃々「はい……」

ありす「納得していただいたのなら、私も嬉しいです」




ありす「この香りで察していると思いますが、もう料理は完成しています」

美玲「何個作ったの」

ありす「エリンギとシイタケとエノキタケで、各々を使用した3つの料理を」

美玲「3つも……」

乃々「あの、キノコ料理ですよね……? 甘いニオイがしますけど……」

ありす「スイーツですから」

乃々「どうしてキノコ料理が甘くなるんですか……おかしいですよ……」

輝子「り、料理は来てからのお楽しみってことで……フヒヒ」

美玲「オマエは楽しそうだなぁ……」

乃々「部屋に帰りたい……」




輝子「改めて……よ、ようこそ、ピストル……ビストロ星&橘へ」

ありす「今、ピストルって言いませんでした?」

輝子「ヒャッハー! 撃ち抜くぜー!」

美玲「水曜どうでしょうの料理回がデジャブするノリだな」

乃々「料理の食材を自分で育てた部分は共通していますけど……」

美玲「味まで共通していると困るんだよなぁ」

乃々「ふ、不吉なこと言わないでください……」

輝子「じゃあ、料理を持ってくるね……」




1品目 エリンギの生クリーム添えドライイチゴかけ








ありす「まずは前菜。エリンギで作った料理です」

ありす「素材の持ち味を生かしたかったので特に下味は付けず、芯までしっかり湯通しをするに留めました」

ありす「また、味にメリハリをつけるため上にはたっぷりと生クリームをデコレーション」

ありす「色とりどりのカラースプレーと、ドライイチゴを散らすことでより一層華やかさが増しました」




美玲「……」

乃々「……」

ありす「いかがでしょうか?」

美玲「あのさ」

ありす「はい」

美玲「食べ物で遊んじゃいけないって教わらなかったか?」

ありす「遊んでなんかいません! これは私なりに真面目に取り組んだ結果です!」

美玲「どう真面目にやったらエリンギに生クリームがプラスされるんだよッ!?」




乃々「キノコさん達は、食べないんですか……?」

輝子「私とありすちゃんは、もう……ね」

ありす「味見も兼ねて、3種類同じものを作ってちょっと前に食べましたから。今は乃々さん達だけ召し上がってください」

美玲「味は?」

輝子「あー……」

ありす「んー……」

輝子「と、とにかく、2人は好き……だと良いよね」

美玲「おい……おい!?」

乃々「これやばい感じのやつなんじゃないですかね……」




輝子「デコレーションは、ありすちゃんがやってくれた。上に乗っている生クリームとか……これがまるで純白の、ド、ドレスみたいでキレイだし……」

輝子「そ、それに、散らしたカラースプレーとかが……宝石のように見えてカワイイでしょう……?」

輝子「ドレスと宝石、これは……そう、シンデレラ! 魔法使いに魔法をかけてもらって、美しくなったシンデレラに見えない、かな?」

輝子「こ、こんなアイディアを出せるありすちゃんには、感謝しか無いよ」

ありす「私は、輝子さんのためにできることをやっただけですよ」

輝子「エリンギクンも、喜んでいる……あと、私も嬉しい……フヒヒ」




美玲「……」

乃々「……」

美玲「なんだこれ」

乃々「さ、さぁ」

美玲「これを見て、アイツはあそこまで興奮できるのか。すごいな」

乃々「キノコさんは、キノコが好きですから……」

美玲「そりゃあそうだけど、好きにしたって懐深すぎだろう……」




輝子「ボノノさん、美玲さん、どうぞ……」

乃々「えぇー……」

美玲「うーん……」

輝子「あっ……ごめん。私だけ、1人でなんか盛り上がっちゃって……へへっ」

輝子「は、晴れ姿みたいでさ、良いよね。もう、地味でも無いし」

美玲「キノコ、オマエ……」

ありす「輝子さんは作っているときも、ずっとニコニコしていましたよね」

輝子「フヒヒ……なんか、すごく楽しくて……」

美玲「う……うぅぅぅ!!」




乃々「あの、すいません……もりくぼは急に用事を思い出したので……」

美玲「手羽先。ちょっとこっち」

乃々「えぇ!? なな、なんですか?」

美玲「いいからッ!」

輝子「ん? ど、どうしたの?」

美玲「ほんの少し話したいことがあるから、ちょっとだけ席を外すぞ。すぐ戻る」

輝子「あ、うん」




乃々「どうしたんですか……」

美玲「あのキノコの喜びっぷりを見たか? 嬉しすぎて泣くほどだぞ?」

乃々「はい……」

美玲「ウチはな、あんなに楽しそうにするキノコを初めて見た」

美玲「オマエはどうだ?」

乃々「私も……いや、笑っているのはよく見ますけど、涙を流すほど喜ぶキノコさんは初めてですね……」

美玲「さっきどさくさに紛れて帰ろうとしたけど、食べないで帰ったらどうなる? アイツは、きっと落ち込む」

美玲「キノコだけじゃない。ありすもだ。あいつも善意で作っているんだから」

乃々「それは……」




美玲「ウチは、食べるからな」

乃々「ほ……本気ですか?」

美玲「せっかく誘ってくれたんだぞッ! ここは食べてやるのが友達だろッ!」

美玲「とにかく、どんな結果にしろウチは食べるから。日曜日だから食堂のごはんも出ないし」

乃々「はあ……」

美玲「それでだ。アイツと、オマエと、ウチの3人セットでインディヴィジュアルズ。そうだよな?」

乃々「あぁ、はい……」

美玲「1人足りなかったらユニットが成り立たない」

美玲「だからな、手羽先。いや、乃々……」

美玲「最後まで一緒に付き合ってもらうぞッ!!」

乃々「いぃやあぁぁぁ……むうりぃぃ……」




美玲「おまたせー」

輝子「お、おかえり」

ありす「乃々さん、さっき用事って言っていませんでしたか?」

美玲「ああ。今それについて聞いてみたけど、急ぎじゃないらしいから食べるのは大丈夫みたい。な?」

乃々「ふぇぇ……」

輝子「ボノノさん……? な、なんか、雨の中に捨てられた子犬みたいな目になってるよ……?」

ありす「例えが限定的ですが、なんとなくわかる気もします」




ありす「では、どうぞ遠慮無く召し上がってください」

輝子「く、口に合えば、良いんだけど」

美玲「目の前にすると、やっぱり心の準備が……。ぐっ、い……ただきますッ!」

乃々「あぅぅ……いただきます……」

美玲「もぐっ、むぐっ」

乃々「もぐもぐ……」

ありす「味は、どうですか?」




美玲「……うん」

乃々「う、うぅ」

美玲「乃々。味を率直に評価してあげるのも、作ってくれた人への礼儀だぞ」

乃々「まずい……」

美玲「それは率直すぎると思うんだよなー」

乃々「どうすれば良いんですか……というか、美玲さんはどうなんですか……」

美玲「生クリームとエリンギが致命的なレベルで合っていない」

乃々「それはそれで辛辣だと思うんですけど……」

美玲「だって実際そうなんだモン!」




輝子「おおむね、わ、私達の意見と、同じだね……」

ありす「このレシピはいける! という確信はあったんですけどね。まさかこうなるとは」

美玲「わかっていて食べさせるなよ……」

乃々「見た目の時点でなんとなくわかっていましたけど……」

輝子「フヒ、やっぱり……もうちょっとエリンギクンに、味付けをするべきだった……かな?」

ありす「お湯で煮ただけですからね。今回の場合は、素材の強みを求めた結果ですが」




輝子「作っているときに……お、思ったんだけどね……」

輝子「半分に切って、お湯で、ゆ、茹でただけ……なのは、料理なのかな?」

ありす「うーん、難しいところですね。生クリームで手は加えていますが」

乃々「素焼きのトーストとかは……料理では無い気がしますけど……」

美玲「でも、生野菜そのままのサラダとかは料理扱いされているぞ?」

輝子「バ、バーニャカウダとかも」

ありす「では、こうしましょう。料理だと思ったもの、それが料理だと」

美玲「李衣菜の言い訳は本当に汎用性が高いな」




乃々「これ、あと2品あるんですよね……?」

輝子「そ、そうだね。もう、用意はできているよ」

美玲「次は何を使ったんだ?」

ありす「輝子さんご自慢のシイタケです」

美玲「またスイーツとは対局にある食材のチョイスをして……」

ありす「次こそはもしかしたら、2人の好みに合うかもしれませんから。どうぞどうぞ」

乃々「もりくぼには……明日が見えません……」




2品目 シイタケとイチゴの茜色ゼリー








ありす「続いて口休めの料理を」

ありす「先ほどは素材の味を残す作り方をしたかったので、エリンギに味付けをしませんでしたが、今回は違います」

ありす「刻んだシイタケをみりんや酒で煮付けて、しっかりと味を染み込ませた旨煮にしてあります!」

ありす「それをイチゴゼリーに入れて冷やし固めました!」

ありす「さらに、ゼリーは2層になっていまして、上段はシイタケ、下段は前の料理で余ったドライイチゴを使用」

ありす「まさに1つで2度おいしいゼリーになっています」




美玲「浮いてる! 何か浮いてるッ!」

ありす「そんな驚かなくても。単なる刻みシイタケじゃないですか」

美玲「ゼリーの中にシイタケが入っていたら普通は驚くだろッ!!」

輝子「あれだよ、あの……あれ。みかんとか、桃が入っている……フルーツゼリー的な感じ?」

乃々「味のほうは……」

ありす「70点くらいですね」

美玲「意外に高いな」

ありす「1万点中の」

美玲「低ッ!!」

乃々「もう勘弁してほしいんですけど……」




輝子「2層にするっていう発想が、す、すごいよね……」

輝子「茜色って名前……この形……まるで、夕暮れの……ふ、富士山のような」

輝子「いいよ……ありすちゃん。ナイス。ナイスキノコ」

ありす「輝子さんに喜んでもらえたのなら、やった甲斐がありました」

輝子「やっぱり、り、料理番組に出場したことがある人は、違うね……」

ありす「輝子さんもPさんに打診しましょうよ。料理番組出たいって」

輝子「し、しゃべりながら料理、できるかな……」

ありす「料理は私よりも上手なんですから、トークもできますよ」

輝子「お、おう……がんばる……」




美玲「空が目に染みる……キレイな空だ……」

乃々「現実逃避しても、目の前のゼリーは消えませんよ……あと屋内です……」

美玲「知ってる」

乃々「もう、さっきのを食べたから……もりくぼは帰っても良いですよね……」

美玲「この2人の、こんな楽しげな顔を前に帰れるのか?」

乃々「むーりー……」

美玲「どっちの意味でだよッ!」




ありす「甘いものが続いてしまっていますが、どうぞ召し上がってください」

美玲「さっきのは甘いとかそういうのじゃなかったぞ……」

輝子「まぁまぁ、み、美玲さんも……ボノノさんも、食べてみて。フヒヒ」

乃々「うぅ……キノコさんの笑顔がまぶしい……」

美玲「いただきます……」

乃々「あうぅ……」




美玲「んっ!」

ありす「美玲さん?」

美玲「あー……あぁー。こぉ……れはちょっと」

乃々「あの、私まだ食べてないんですけど、どうですか……?」

美玲「……噛めば噛むほどダシのうま味が溶け出る、シイタケの煮物味のゼリー」

乃々「そのままじゃないですか……」

美玲「それ以上もそれ以下も無いくらいそのままだよ」




美玲「ごめん。これダメ。これはダメッ!」

ありす「んー……イチゴゼリーとドライイチゴの甘さでなんとかなると思ったのですが。スイカに塩をかける要領で」

輝子「前のとは逆に、キ、キノコの味を……前に出しすぎたかな?」

美玲「完全に煮物だから! ゼリーの味と激突し合っているから!」

ありす「下段はおいしかったんですけどね」

輝子「うん」

乃々「何もしないほうがおいしいって、どうなんでしょうね……」

美玲「あーん、ってしろ乃々。食べさせてやるから、ほら! あーん!」

乃々「い、いいです! 自分で食べ……ぬ、ぬわー……!」





乃々「ああ……刻が見える……」

輝子「あっ、もしかして……シイタケクンに、生クリームを乗せたほうが、より効果的……?」

ありす「旨味の強いシイタケと、甘味の強い生クリームなら、たしかに化学反応が起きるかもしれませんね!」

美玲「理科の実験か何かか、これは」

乃々「はっ」

美玲「うん?」

乃々「今わかりました……宇宙の心はプロデューサーさんだったんですね……」

美玲「何言ってんだオマエ」




輝子「つ、次が最後、メインディッシュ……。これは、すごいよ……!」

ありす「輝子さんに同じく。前2つと比べて、格段に良い出来になりました」

乃々「もういいんですけど……」

美玲「すごいって、何がどういうアレなんだよ」

ありす「論より証拠。とにかく食べてみればわかりますよ。損はさせませんから!」

美玲「もう覚悟はできているから」

ありす「さすがは美玲さん。そのクールさがカッコイイです」

美玲「そ、そう? 照れるなー♪」

乃々 (乗せられてる……)




3品目 エノキタケのストロベリーホットケーキ








輝子「じゃ、じゃじゃーん。ホットケーキだよ」

ありす「焼きあがりも、このようにこんがりキツネ色に。見た目もバッチリです」

美玲「……たしかに、普通のホットケーキだ」

乃々「今までで1番料理っぽい見た目ですね……」

美玲「この生クリームの飾り付け、途中でミスってないか?」

ありす「エ、エリンギに使いすぎただけなので。特に味には影響は出ていませんよ」

乃々「エノキ要素もイチゴ要素もまったく感じないんですけど……?」

輝子「フヒヒ……それは、ありすちゃんが……詳しく、せ、説明してくれるから」




ありす「このストロベリーホットケーキという名前ですが、上におまけ程度に乗せているイチゴを指しているのではありません」

ありす「牛乳の代わりに、生地を練る段階でこれを加えました」





美玲「何これ?」

ありす「イチゴ豆乳です」

美玲「イチゴ豆乳!?」

乃々「なんでそんなものあるんですか……」

ありす「つまり、イチゴが最高だからこそ作られてしまった飲み物なのでしょうね。イチゴは最高ですから」

輝子「キ、キノコ豆乳とかも、いつか出るかな?」




ありす「次にエノキタケですが……美玲さん」

美玲「ん?」

ありす「どこでも良いので、ホットケーキを切って断面を見てもらえますか?」

美玲「だ、断面?」

輝子「ど……どうかした?」

美玲「……わざわざ断面を見せようとしているってのが、なんか怖いぞ」

乃々「エノキタケがみっちり詰まっていて……なんて光景なら、夢に出そうなんですけど……」

輝子「それはそれで……小梅ちゃん、好きそう。フヒヒ」

美玲「とりあえず切るからな」







ありす「どうです?」

美玲「別に普通の……ホットケーキの中身? 乃々にはどう見える」

乃々「特に変な点は……」

輝子「食べてみると、わ、わかるよ。一口、ほんの一口でびっくり……」

ありす「その通り。どうぞ食べてみてください。びっくりしますよ」

美玲「どれだけびっくりさせたいの!?」

乃々「美玲さん……」

美玲「えぇいッ! いただきますッ!」




美玲「もぐもぐ……」

美玲「むごっ!!」

乃々「み、美玲さん?」

美玲「む、ぐぐっ」

美玲「……普通に食べられるんだけど、これ」

乃々「えぇっー!?」

ありす「ほら、言ったじゃないですか。損はさせませんって」

輝子「フヒヒ。これは、大成功だったよ……」




ありす「乃々さんの予想は、実はほぼ正解だったんです。見ただけではまったくわかりませんが、中にはエノキタケがみっちりと」

輝子「保護色……ってやつだね」

ありす「あぁ、もちろん茹でてありますからご心配無く」

美玲「味も完全に普通のホットケーキだ」

美玲「……噛むたびにエノキタケがシャキシャキすることを除けば」

乃々「それもう普通じゃないですよ……」

美玲「しゃべっていないでオマエも食べるんだよッ!」

乃々「や、ちょっ、ぐわあああ……!」




乃々「エノキがコリコリなんですけど……コリコリなんですけど……」

ありす「食感は改善の余地がありますが、味的には何の問題もありませんね!」

美玲「まぁ、うん」

輝子「シイタケクンも、エリンギクンも……こうすれば、も、問題無く食べられるね……」

ありす「ホットケーキミックスなら残っていますけど、今から作ってみます?」

輝子「おぉ……!」

美玲「い、いいから! そんな何枚も食べられないから!」




美玲「ごちそうさまー」

乃々「ご……ごちそうさまです……」

ありす「お粗末さまです」

輝子「ボノノさんも美玲さんも……きょ、今日は本当にありがとう……」

ありす「できれば全品がおいしく作れたら、もっと良かったんですが」

美玲「そんなことない。たしかに最初2つはアレだったけど、2人の努力は伝わった」

乃々「料理への思いはたしかに……感じましたけど……」

輝子「て、照れるな……」




ありす「今回の良い部分と悪い部分は大方把握できました」

ありす「輝子さん! さっそく作戦を練りましょう! 次は間違いなくキノコとイチゴのおいしい料理ができるに違いありません」

輝子「フ、フヒ」

乃々「まずイチゴから離れたほうが良くないですか……」

輝子「また、キノコスイーツができたら……2人に、ご、ごちそうするね」

美玲「……今度は幸子も無理やり引っ張ってこようか」

乃々「あうぅ……」




後日


美玲「ってことが、この間あった」

モバP「キノコスイーツ……話だけ聞いてもすごいな」

美玲「すごいなんてもんじゃなかったよなー」

乃々「発想の次元が違いました……」

モバP「前に輝子に誘われたけど、それのことだったのか。でも、そこまでブッ飛んでいると不思議と食べたくなってくるな」

乃々「た、食べたいんですか……?」

美玲「……言えば作ってもらえると思うけど」




モバP「しかし、美玲は友達思いなんだな」

美玲「な、なんだよッ! ウチが薄情者に見えていたのかッ!?」

モバP「いやいや。そうじゃなくてだな」

モバP「俺だったら口に合わない料理でも、作ってくれた相手を傷つけたくないから感想をごまかすと思うんだ」

モバP「けど、美玲は妥協せずに、相手にちゃんと感想を伝えている。これはそうそうできることじゃない」

乃々「たしかに……正直に言うと泣いたり怒ったりされるかもしれないですね……」




美玲「別にウチは……せっかく作ってくれたんだから、食べるのも、味を伝えるのも当たり前だし……」

モバP「それだ。孤独だとか一匹狼よりも、友達思いの美玲が1番良いと思う」

美玲「へへっ……♪ あっ、違っ、変なこと言うなよッ! もう!」

乃々「美玲さんは一匹狼で、ボッチに近い立ち位置だから……他人の気持ちがよくわかるんですよ……」

美玲「おま……オマエもボッチだろうがぁーッ! 手羽先ぃーッ!!」

乃々「ひぃっ! なんでですか、妥協せずに言っただけですけど! あと手羽先じゃないんですけど!」

美玲「そういうことじゃないんだよ! ガオーッ!」

モバP「ははは、2人とも仲良しだな」

モバP (……それに、輝子もあっちと仲良しみたいだし、よかったよかった)



加奈「イチゴゼリーにシイタケを!?」

輝子「そ、そうだよ」

かな子「すごく……すごく、なんて言うか、チャレンジャーだね!」

ありす「もしかしたらおいしいかもしれませんから、とりあえずやってみました」

かな子「結果は……」

輝子「お察し」

加奈「な、なるほど」

ありす「ホットケーキはある意味奇跡でした」




かな子「ねぇねぇ、輝子ちゃん。私や加奈ちゃんとも今度一緒にお菓子作りしてみない?」

輝子「えっ、い、一緒に? いいの?」

かな子「うん! キノコに合うかどうかはわからないけど、クッキーとかケーキを作ってみんなで食べたら、きっと楽しいよ♪」

加奈「みんなでお菓子作り……作り方はメモしますねっ!」

ありす「私も作ってみたいです。お菓子作りを通してスキルアップ目指します!」

かな子「それじゃあ、今度みんなで集まって作ろうね♪」

加奈「めんつゆも持っていいですか!」

かな子「めんつゆは……お菓子には使わないかな」




輝子「フヒヒ……いいね……楽しい」

輝子「い、いつかは……食べた人を幸せな気分にできる、キノコスイーツ……作りたいな」

輝子「キノコも幸せ! 食べた人も幸せ! 私も幸せ! win-winじゃないか、フウゥゥゥゥーー!!」

かな子「輝子ちゃん?」

輝子「あ、はい。大丈夫です。お菓子作り、楽しみだね……フヒヒ♪」




――fin――

 


 SS速報VIPに投稿したモバマスSS14作目。
 料理をネタにしようと思っていたのは最初からでしたが……
 どうせならネタにする料理を自分で作っちゃったほうが面白いんじゃないか!? なんて感じのアホな理由で挑んだ作品
 食べた感想は内容の通りなんですが、より細かく説明したのがこちらになります。
 それもあってか、投稿中やまとめサイトでのレス・感想が非常に盛り上がった。こんなに好評だったの初めて!

 最初に書いていた時点だと(料理があまりにもアレすぎて)美玲ちゃんのツッコミが辛辣語句のオンパレードになってしまい
 「このまま投稿すると、他のありすPに怒られてしまう……」という判断から、わりとマイルドめに変更しました。
 その分、森久保が正直な意見をバカスカ言ってます。すまねぇな森久保!

 

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