ライラ「公園で知らない人とおしゃべり」





ライラ「……そうでございますか。P殿もチヒロさんも今日はお忙しいのですね。わかりましたです」

ライラ「ふむぅ、日本語を教わろうと思いましたが、今日は2人とも無理みたいですねー」

ライラ「やっぱり1人で乗り切るために、国語辞典を買ってみるべきでしょうか……」

ライラ「でも辞典は3000円や4000円とかしますです。アイスいっぱい買えます」

ライラ「それはちょっと無駄遣いです。朝晩お水の生活になってしまいますね」

ライラ「うむむ……」

ライラ「……おぉ、あの方ならば」




仁美「ふぅ、ようやく入荷してくれたよあの本屋」

仁美「日本刀の図鑑が品切れなんてね。ゲーマー女子達め! みんな飛び付きすぎ!」

仁美「さて、読みますか。慶次様の刀は……孫六だったっけ? んふふふふ」

ライラ「ヒトミさんヒトミさん」

仁美「おろ?」

ライラ「ちょっと聞きたいことがありまして。お時間よろしいでございますかー?」

仁美「オッケーオッケー! なあに?」




ライラ「日本語を教えて欲しいのでございます」

仁美「構わないけど、アタシで良いの? 他の子じゃなくて?」

ライラ「ヒトミさんが、日本の文化によく精通していらっしゃるからですねー」

仁美「文化に精通なんて、照れるね♪」

ライラ「いえいえ。戦国時代や武将など、日本の文化に関して右に出るお方はおりませんよー」

仁美「よせやーい♪ 褒めても何も出ないぞー♪」

ライラ「ところで、それは何の本でございますか? 大きいですねー」

仁美「これ? これはね、いろんな日本刀の写真と説明が載っている図鑑なの」

仁美「ぶっちゃけ、アタシは刀に関して専門外だけど、一応持っておこうかと思って。慶次様のやつもあるみたいだし」




ライラ(16)




丹羽仁美(18)








ライラ「読書のお邪魔でしたですか……それは申し訳ないでございます」

仁美「えぇい、なんだそれくらいのこと! 気に落とされるなライラ殿よ!」

仁美「本は手元から無くならぬが、人の出会いは移ろい行くもの。それ、すなわち一期一会と申す」

ライラ「イチゴイチエ……」

仁美「長い目で見れば、今という瞬間はとても大事にござる。されば、今思い付いたことを是非実行するが良し」

仁美「ご安心召されよ。不肖丹羽仁美、できる限り助力いたす所存!」

ライラ「おぉー、言葉は難しいですが、カッコイイでございます」

仁美「アタシの専門は歴史だから、たいしたことは教えられないかもしれないけど。とりあえず座りなよ」




仁美「具体的には何を知りたい感じ? ライラっちは結構ペラペラだよね?」

ライラ「そうでございますねー。言うなれば文字というか」

仁美「ああ、『ン』と『ソ』の書き方の違いとかそういう」

ライラ「はいはい。でもライラさん、ンとソは区別して読み書きできるのですよー」

仁美「すごいじゃーん! 外国出身者はみんな引っかかるのに!」

仁美「ライラっち、もしかして頭良いんじゃないの?」

ライラ「そんなことはないでございます。えへへー」

仁美「またまた謙遜しちゃって」




仁美「じゃあじゃあ、ためしに何か書いてみてよ!」

ライラ「何を書けば良いですか?」

仁美「ライラっちの書く日本語の文章を、アタシは見てみたいなぁーなんて☆」

ライラ「わたくし、漢字はまだまだ未熟なので。恥ずかしいです」

仁美「いいじゃーん。日本語の書き方テストみたいなものだと思って♪」

ライラ「ヘタクソでも笑わないでほしいでございますよ?」

仁美「笑うわけないじゃん。ライラっちががんばっているのにさぁ」




ライラ「何を書いたら良いでしょうか?」

仁美「そうだなぁ。趣味とか?」

ライラ「わたくしの趣味でございますかー。公園でいろんな方とおしゃべりすることでしょうかねー」

仁美「おっ、それ良い感じだね! 書いてみようか!」

ライラ「いざ書くとなると長い言葉でございますね。口に出すのは簡単なのに」

仁美「アタシが監督してあげるから! 自信を持って!」

ライラ「了解です。とにかく書いてみますです」




ライラ「できましたー」

仁美「本当? どれどれ……」

ライラ「やっぱり、いざ見せるのは恥ずかしいでございますよー」

仁美「うえっへっへ。ここで抵抗しても、誰も助けには来ないぞぉ〜?」

ライラ「くっ……殺せ」

仁美「……どこでそんなピンポイントな表現覚えてくるの?」

ライラ「チアキさんのマネでございます」

仁美「そういえばそんなこと言ってたな……聖騎士役の時に……」




ライラ「では、どうぞ」

仁美「どうも。さて、ライラっちの直筆文字は……」



『ハム園で知らない人をおしゃぶり』



仁美「!?」

仁美 (まずハム園って字もすでに間違っているんだけど、後半のこの誤字は……)

ライラ「慣れない字なので、へにょってますです」

ライラ「……ヒトミさん? どうかしましたか?」

仁美「んん!? な、なんでもないよ!!」




ライラ「赤ペン先生、鑑定やいかに」

仁美「う……うん、あの……惜しいというか、たぶん本来書きたかったこととちょっと違う文章になってるかな……?」

ライラ「そうでございましたか……。その文章だと、どんな意味になっちゃうですか?」

仁美「い、いいい意味!?」

ライラ「はいー」

仁美 (これ言わなきゃダメなの? いやいやいや、後半のやつをはっきり解説しちゃダメでしょ!!)




仁美「意味は、あー……んーと……」

仁美「とりあえず! 公園でおしゃべりをする内容じゃなくなっている感じだね!」

ライラ「むー、そうでございますか。それは困りましたねー」

ライラ「おしゃべりするという意味になるには、どう書けばよろしいのですか?」

仁美「書くなら……こうかな」



『公園で知らない人とおしゃべり』



ライラ「なるほど。たしかに微妙に違いますです」

仁美「もしも書くときは、こうしてみてね」

ライラ「参考になりましたですよ。ありがとうございましたー」

仁美「いいのいいの!」

仁美 (よし、大事故は回避できた! たぶん!)




ライラ「それにしても、公園という漢字の形は不思議でございますねー」

仁美「本当? どの辺が不思議?」

ライラ「これ、カタカナの『ハム』とはまた違うものでございますか?」

仁美「たしかにハムに似てるけど、元々こういう漢字なわけで」

ライラ「公園……ハム園……ハム……お肉……。あぁ、はい、お肉」

仁美「ライラっち、最後にお肉食べたのいつ?」

ライラ「ちょっとわからないでございますねー」

仁美「どうしよう。養ってあげたいよ」




ライラ「ということは、ということは」

ライラ「公太郎という名前のお方を、『ハム太郎』と書いたら間違いなのでしょうか?」

仁美「ハム太郎は怒られるね……たぶん。あだ名として笑って許してくれる人はいるかも」

ライラ「では、公太郎という名前で体型太めのお方をハムさんと呼ぶのは」

仁美「それはダメだよ!? 確実に怒られるよ!!」

ライラ「お肉のハムではなく、ハムスターさんみたいに丸いから……という意味のつもりでございますが……」

仁美「丸いなんて言い方すると余計に怒るって!」

ライラ「でもハムスターさんは丸くてカワイイでございますよ?」

仁美「ハムスターはカワイイけどさぁ……」




ライラ「最近は、ハムスターさんを見にペットショップに行くのでございますが」

ライラ「じっくり観察していたら、ハムスターさんのモノマネができるようになりましたです」

仁美「ハムスターのモノマネ?」

ライラ「鳴き声でございます」

仁美「ほう! 聞かせて聞かせて!」

ライラ「まだ他の方々には披露したことが無いので、本邦初公開でございますよー」




ライラ「ハムスターさんの鳴き声」

ライラ「ヂウ……ヂ……ヂヂ……ギィー! ギイィー!」

ライラ「あ、これ怒っているハムスターさんでございます」

仁美「内容のチョイスがわりと想像の斜め上だった!」

ライラ「ダメでしたでしょうか?」

仁美「いや、すごくハムスターというかネズミっぽいというか、良かったよ!」

仁美「ただ……もっとこう、チューチューとかキュッキュとかプリティーなやつだと思っていて」

ライラ「こっちのほうがネタとして面白いと思いましたので」

仁美「ネタって」




ライラ「続きまして、ハムスターさんの鳴き声・その2」

ライラ「……」

仁美「……?」

ライラ「……」

仁美「……ライラっち?」

ライラ「……」

仁美「……」

ライラ「……ハムタロサァン」

仁美「んふっ」




ライラ「どうでしょう? ハムスターの鳴き声・その2でございます」

仁美「ふっ、に、似てる……声の上ずった感じが、いいよ……」

ライラ「やったーでございます。褒められたですよ」

仁美「えっほ、ごほっ! い、今のは、積極的に使ったほうがいいよ! マジで!」

ライラ「フェイフェイダヨーさんとモノマネの練習をした甲斐がありましたですねー」




仁美「ネタとか練習とか言ってるけどさ、ひょっとしてお笑い番組にでも出たいの?」

ライラ「いいえー。芸を持っていたほうが、何かとアピールできるのだと思ったのでございますよー」

仁美「一芸に秀でたアイドル……そういうのもありかもね」

仁美「アタシも武将の口上みたいなの考えてみようかな!」

ライラ「ちなみにフェイフェイダヨーさんはヨドバシカメラのモノマネを練習していましたですよ」

仁美「ヨドバシカメラの……?」

ライラ「ヨォドォバァシィ〜といった具合でございますねー」

仁美「えっ、中国語の店内放送!?」




ライラ「イントネーションとかが本格的だったのでございますよー」

仁美「そりゃあ母国語が中国語だから、似てるというかそのままというか」

ライラ「お国の言葉を話すだけでも芸になるでございますか?」

仁美「なるんじゃないかな?」

仁美「ほら、地元の方言で歌う歌手とか、訛りをネタにした芸人さんとかみたいな!」

ライラ「ライラさんもやってみますです」

仁美「おうおう、良いねー。何やるの?」

ライラ「アラビア語でハム太郎さんのオープニング曲を歌ってみるのでございますよー」

仁美「やっぱりハムスターのネタなんだ!」

ライラ「拙い部分も多々ありますが、ご容赦くださいませませ」




とっとこハム太郎OP(アラビア語版)

http://www.youtube.com/watch?v=qMRuW3BRAM0




ライラ「以上でございますよー。ご静聴どうもでしたー」

仁美「いえーい! 何言ってるのか全然わからなかったけど、最高だったよライラっちー!」

ライラ「ありがとうございますです。なんだか照れますねー」

ライラ「でも、このお歌は芸として成立するでしょうか? アラビア語でございますよ?」

仁美「大丈夫。ところどころ『ハム太郎』って単語はわかったから。伝わる伝わる!」

ライラ「そうでしたかー。今度、フェイフェイダヨーさんと一緒にもっと練習しますですよー」




ライラ「太郎の単語で思い出したのでございますが……」

仁美「ほいほい」

ライラ「個人的には、モモタロさんの童謡とかにも、表現について疑問がありますねー」

仁美「桃太郎の歌? あれに変な表現あったっけ?」

ライラ「歌詞の途中にありますですよ」

ライラ「ヒトミさん、そこを確認したいので、わたくしと一緒にモモタロさんを歌ってくれないでしょうか?」

仁美「いいよー。まぁ、恥ずかしいからちょっと声小さめにするね」

ライラ「ありがとうございます。交互に歌いましょうねー」




ライラ「では……せーの」

仁美「もーもたーろさん」

ライラ「モーモターロさーん」

仁美「おっこしーにつーけた」

ライラ「きりたんぽー」

仁美「……ん?」

ライラ「ひっとつー わたしに くーださいなー……」

ライラ「ヒトミさん? 今のヒトミさんの番でございましたよ?」

仁美「あ、うん。ごめんごめん」




ライラ「これを歌うたびに、思うのですよ」

ライラ「わたくし、きりたんぽなる食べ物は食べたことありませんが、それが棒みたいに長い形なのは知っています」

ライラ「棒状ならば、“ひとつ”ではなく“1本”とカウントするのでは?」

仁美「うーんとねぇ……その認識は合っているよ」

仁美「きりたんぽは棒状だからね。1本2本って数え方は間違っていない」

ライラ「そうでしたか。ライラさん正しかったのですねー」

仁美「ただ、きりたんぽじゃないの。“きびだんご”なの」




ライラ「Kibi dango ?」

仁美「きびだんご」

ライラ「きりたんぽではないのでしょうか?」

仁美「丸いおだんごだね」

ライラ「ほう。あの、モチモチしたおだんごでございますかー」

仁美「そうだね。残念ながら、きりたんぽでは無いんだよ」

ライラ「オーウ! ウッカリデース! ライラサァン、チガウデース!」

仁美「ぶっ」




仁美「なんで今……ふふっ、うさんくさい外国人風に、し、しゃべったの……?」

ライラ「ライラサァン、ニポンゴ、イマイチ! コレ、モウ、ニポンゴシャベルシカク、ナイネ」

ライラ「コレカラハ、ウサンクサイ、イントネーションデ、シャベリマース」

仁美「やめ、やめ……ぶふっ!」

ライラ「ハムタロサァン!!」

仁美「いいって! も、もうそのマネはもういいってば!」

ライラ「天丼と畳みかけは芸の基本と教わったのでございますよー」




ライラ「きりたんぽではなかったのでございますねー」

ライラ「ただ、それでも疑問がまだまだ」

仁美「他にもあるの?」

ライラ「犬、猿、キジはおだんご1個をもらっただけで、一緒に鬼退治へ行ったのでしょうか?」

仁美「そうなるよね、うん。歌でも絵本でもそうだし」

ライラ「きびだんご1個で、命懸けの戦場に身を投じたのでございますか?」

仁美「たぶん、あれだよ! 餓死しそうなくらいお腹空いてて、ごはんをくれたからそのお礼みたいな!」

ライラ「おぉー! なるほど、そういうことだったのですね!」

ライラ「わたくしも、公園生活時にP殿からゴハンをもらいました。わたくしと同じですねー」

仁美「ライラっちは今も昔も生活レベルが壮絶だね、本当に」




ライラ「モモタロさんのお供は3匹だけでございますか?」

仁美「そうだよ。1人と3匹で鬼ヶ島に行ったの」

ライラ「キンタロさんやウラシマさんはいなかったのですか?」

仁美「あはは、金太郎と浦島太郎はまた別のお話だから、桃太郎の話には出てこないんだよー」

ライラ「おかしいでございますねー……」

ライラ「わたくしの知っているモモタロさんは、キンタロさん達と一緒に旅をしていました」

仁美 (auのCMかな?)

ライラ「モモタロさんが“桃変化―ッ!”って叫ぶと、身体に鎧が装着されていましたです」

仁美「そっち!? いや、たしかにあれも桃太郎だけど!!」




仁美「どこで覚えてきたの?」

ライラ「はい。ナオさんに桃太郎について知りたいと言いましたらですね、アニメのDVDを貸してくれました」

仁美「桃太郎って意味では間違ってないけど、違うと言えば違う感じで。一応は桃太郎だけど」

ライラ「普通のモモタロさんは熱血バトル作品ではないということでございますね。覚えましたですよ」

ライラ「……そういえば脱線ばかりしていて、本題にまったく入っていませんでした」

仁美「あぁ、そういえば文字が聞きたいとかだったよね? 脱線させたのアタシだ」

ライラ「ヒトミさん、元々聞きたかったものを質問して大丈夫でございますか?」

仁美「応ともさ! それがしのようなうっかり者でよろしければ!」




ライラ「『人』という字をどうお考えでございますか?」

仁美「人は……人間とかそんな感じの意味だよね」

ライラ「ライラさんはこんな話を聞きました。人という字は、2人の人間がお互いを支え合っている姿だと」

仁美「あっ、それアタシも知ってる。ドラマで言ってたとか」

ライラ「ドラマのセリフでございましたかー」

ライラ「この話を聞いたときに、なんて良い話なんだって思いましたですよ」

ライラ「ですが『人』の漢字を見ていたら、だんだんよくわからなくなってきたのでございますよ」




仁美「よくわからなくなった?」

ライラ「この1枚の紙をご覧くださいです。どうぞ」







仁美「『人』の字が印刷されてる紙……? 楷書体とゴシック体か」

ライラ「そうでございます。わざわざヒナさんにパソコンで作ってもらいました。『人』という字を2種類並べてみたですよ」

ライラ「これを見比べて、気づくことはございませんですか?」

仁美「この2つの人の字をねぇ……」

仁美「……あぁっ!!」




仁美「これは……」

ライラ「気づいてしまわれましたか?」

仁美「ま、まさか……そんなことが……」

仁美「今までまったく気にならなかったけど、これは……」

ライラ「おそらく、ヒトミさんの想像の通りだと思いますですよ」

ライラ「この『人』という漢字は……」

ライラ「字の種類によっては、まったくお互いを支え合っていないのでございます」




仁美「なんたることか!」

仁美「お手前に教える姿勢を示しておきながら、このような小学校1年生で習う字の細かい違いに気づけないとは……」

仁美「我が不徳の致すところ、この場にて腹を斬りとうござる!」

ライラ「セ、セップクはダメでございますよー」

仁美「傾奇者、最後の意地よ! ライラ殿は介錯を!」

ライラ「殿中でございますよー殿中でございますよー」

仁美「上野介! この間の遺恨、覚えたるかー! ……って、これだと忠臣蔵になっちゃうよライラっち」




ライラ「結局、『人』の字は本当に支え合っているのでございますかねー?」

仁美「こういう時のインターネットだよ。こう、ケータイでちょちょいっと」

ライラ「ほほー」

仁美「由来を検索して……へぇー……はいはい」

ライラ「ヒトミさーん、ライラさんも気になりますですよー」

仁美「ライラっち、ちょっとそこに立ってみ」

ライラ「立つのでございますかー?」




ライラ「立ちましたですよー」

仁美「じゃあ、ちょっと横に足を広げてみようか」

ライラ「これくらいでしょうか?」

仁美「あとほんの少し。肩幅くらいまで開く感じで」

ライラ「肩幅……大体これくらいでございますかねー?」

仁美「うん、バッチリ。ところで、今どんな状態になってる?」

ライラ「今はですね、足を開いたまま何もせずに立っていますですね」

仁美「おやぁ? この形は何かの漢字に似ている気がするねぇ?」

ライラ「形……もしかして『人』でございますか?」




仁美「正解! なんか、足開いて立っている姿が由来っぽいよ」

ライラ「2人の支え合いではなかったのでございますねー」

仁美「……あ、これも面白いな。ライラっち、そのまま両腕を真横に広げてみて」

ライラ「真横でございますねー」

仁美「そうそう。飛行機の翼みたいなイメージで」

ライラ「こうでございますねー。これは何でございますか?」

仁美「大!」

ライラ「おぉー」

仁美「えーっと、『大』の字は人が腕を広げた姿が元になったとかなんとか」




仁美「ついでに別ポーズもやってみようか! 1回足閉じて、腕そのまま」

ライラ「はいはい」

仁美「右足を上げてー。左足だけでポーズをキープ」

ライラ「か、片足立ちは不安定でございます、よ……これは何の漢字です?」

仁美「命!」

ライラ「おおぉー!」

仁美「ごめん、嘘。それ芸人さんのネタ」

ライラ「由来じゃないのでございますか?」

仁美「うん」

ライラ「あらー」




仁美「でも、支え合っているなんて話もあながち間違ってないよね」

ライラ「どういうことでしょうか?」

仁美「人間が立っていられるのは、足が体を支えてくれているからだもん」

仁美「骨があって、筋肉があって、足がまっすぐ支えて、これだけバックアップされてようやく立てる」

仁美「アタシたちだって、親とか友達とか支えてもらって、それで今があるのかもね」

ライラ「そうでございますねー……」




『あー……。何か御用でございますですか? わたくしライラと申しますです』



『アイドル……? それはお金を稼げますですか?』



『おぉ……いいです、お家賃がお支払いできますです。素敵でございますねー』



『んーと……イイお仕事教えてください。ワタクシ、何でもしますですよ!』



『アイドル、とても素敵なお仕事でございますね。みんなが喜んでくれるのはとっても楽しいでございます』




ライラ「わたくし、日本に来たまでは良かったのですが」

ライラ「家もお金も無くジリ貧で、言葉も今より中途半端で、公園生活でございました」

仁美「うん」

ライラ「あのままP殿に会わなければ、さてどうなっていたことやら」

ライラ「別の道になっていたかもしれませんですし、もしかしたら死んでいたかもですねー。あははは」

仁美「サラっと言うねぇ〜」

ライラ「昔話は、めでたしめでたしでございますから」

ライラ「ライラさんはアイドルになってお仕事ができて、めでたしめでたし。モモタロさんも、めでたしめでたし」

ライラ「最後に笑えれば、昔のことも笑い飛ばせますです」




仁美「最後に笑えれば万事OKか。いいこと言うじゃん、ライラっち!」

仁美「そういえば、漫画の慶次様は強敵や苦難と相対しても豪快に笑っていたりしてたなぁ……うん」

ライラ「ヒトミさんはどういった経緯でアイドルに?」

仁美「アタシ? アタシはねー、お城の観光に行ったときに声かけられてさー」

仁美「アイドルになると時代劇も出られるって言われたから、やるやる! みたいな」

ライラ「ほー」

仁美「軽い?」

ライラ「ライラさんは、ヒトミさんそういうノリが大好きでございますよ」

仁美「どうだろう、あんまり参考にしないほうが良いよ?」




ライラ「ずっとヒトミさんに聞こうと思っていたのでございますが……」

仁美「うん?」

ライラ「ヒトミさんはどの方にも“○○っち”と付けて呼んでいるのですか?」

仁美「みんなじゃないよー。年上の人は普通に呼んでる。プロデューサーとか」

ライラ「“○○っち”の由来とか」

仁美「由来は……無いね!」

ライラ「無いのでございますかー」

仁美「漢字とかはどんな字も成り立ちがあるけど、アタシのは何て言えば良いかな、そう呼んだほうがカワイイ気がして」

ライラ「ライラさんも?」

仁美「カワイイよー」

ライラ「ありがたきしあわせー」




ライラ「タマミさんは、タマミっちでございますよね?」

仁美「そうだね。珠美っち」

ライラ「タマミっち……たまごっちと響きがそっくりでございますねー」

ライラ「おや……? そう考えると、ヒトミさんの場合はたまごっちではなく『たまごっちっち』になるですか?」

仁美「たまごっちはたまごっちだよ?」

ライラ「妖怪ウォッチは『妖怪ウォッチっち』に」

仁美「ならないならない」

ライラ「わたくしも、あだ名の法則がわたくしもだんだんわかってきた気がしますです」




ライラ「漢字はもう1つ聞きたいのがございますですが、良いでしょうか?」

仁美「どんどん来ちゃって構わないよ!」

ライラ「ヒトミさん、やさしいです。ありがとうございますです」

ライラ「どうぞこれを」







仁美「『幸』と『辛』の字?」

ライラ「そうでございます」

ライラ「この2つ、ほんの少しの違いで意味もまったく変わってしまうのが、気になりましたですよ」




ライラ「『幸』はしあわせ、ハッピーでございます」

ライラ「けれど、頭から線を1本取ると『辛』。つらい、ビターになりますです」

ライラ「不思議でございますねー」

仁美「おー、そうだね。全然気づかなかった。1画違いだ」

仁美「幸せから線を1本取れば辛くなる。いやー、なんか深い!」

ライラ「ヒトミさんは」

仁美「はいはい?」

ライラ「ヒトミさんは、幸せですか?」




仁美「それは、何か哲学的なアレってこと? 生活面でのアレってこと?」

ライラ「いろんなアレで」

仁美「いろんなアレか……」

仁美「幸せか不幸せかで言えば、幸せかも。武将グッズ買ったり、お城巡りしたり。お仕事では大河ドラマだって出られた」

仁美「順調も順調。毎日が楽しくいられるってことは、幸せなことだと思うね」

仁美「そっちはどう? 幸せ?」

ライラ「わたくしでございますか?」




ライラ「ライラさんも毎日楽しいでございます」

ライラ「みなさんとおしゃべりして、カワイイ衣装を着て、お仕事終わりにアイス食べて……」

ライラ「満足満足でございます」

仁美「でしょー」

ライラ「ただ、それで良いのかどうか、たまに不安になるです」

仁美「不安?」

ライラ「そうでございます」




ライラ「ライラさんのパパはですね、わたくしに何度も結婚のお話を持って来たのでございますよ」

仁美「結婚!? えっ、16歳だよね?」

ライラ「はいー」

仁美「アグレッシブなお父さんだなぁ」

ライラ「パパはわたくしが結婚することを『幸』と考えていたのかもです」

ライラ「しかし……嫌がったことで、パパの期待にそえなかったということでございまして」

ライラ「つまり、パパの『幸』を『辛』に変えてしまったのではないかと……たまに考えてしまいますですね」

ライラ「ライラさんは自分勝手でしょうか?」




仁美「ねえ、ライラっち」

ライラ「はい。何でございましょう?」

仁美「お母さんは? お母さんも結婚しろ結婚しろって言ってたの?」

ライラ「いいえ。ママには、自分のやりたいことをすれば良いと応援されましたです」

ライラ「そう言われたので、わたくしは決心してお家を飛び出してきたわけでございまして」

仁美「そうか……そうか!」

ライラ「どうしましたのですか、ヒトミさん?」

仁美「それではライラ殿、こう考えてはいかがかな?」

仁美「自分は、この仕事で皆の心を『辛』から『幸』に変えている、と」




仁美「数多のファンレターをもらったはずだが、どんなことが書かれていたかね?」

ライラ「お手紙は……そうでございますねー」

ライラ「応援しています。がんばってください。そんな感じに」

仁美「うむ、それだ!」

仁美「父上の意に反したものの、代わりにそれ以上の者達を『幸』にした」

仁美「それで、よろしいのではなかろうか」




仁美「お家の事情とか小難しいことがあるのかもしれないけど」

仁美「ここでみんなを幸せにする仕事をやってます、って胸を張って言えるような……そんなアイドルになろうよ!」

ライラ「……はい!」

ライラ「ライラさん、もっとお仕事がんばるでございますよ!」

仁美「この図鑑の刀のように、武士の刀のように、アタシもライラっちの刀となって手伝うよー!」

ライラ「これが本当の助太刀でございますねー」

仁美「うまいっ! 座布団1枚!」




ライラ「ヒトミさんのおかげで、色々と勉強になったのでございます」

ライラ「ありがとうございましたですよ」

仁美「むしろこんなもんで充分なのか? って思うよ。半分以上脱線してたわけで……」

仁美「……おっ? ライラっち、あれ見て」

ライラ「あれとは?」

仁美「あれだって。ほら、入口のほう」




幸子「いや、もう本当に、あの罰ゲームは物理的にキツイですよ!」

小梅「さ、幸子ちゃん……良い悲鳴、だったよ……ホラー映画で最初に、お、襲われる人みたいな……」

幸子「それ死んじゃう系のモブキャラですよね!?」

幸子「あんなにぐるんぐるん回されたら、誰だってそりゃあ叫びますよ」

輝子「ま、まぁ、クイズタイムショックって……そういう番組だから……」

幸子「ぐぅっ……どうもボクはクイズ番組と相性が悪いみたいですね」

幸子「ああいった番組は礼さんが出れば良いんです。あの人、なぞなぞ大好きですし」




輿水幸子(14)




白坂小梅(13)




星輝子(15)






幸子「あのですね!」

幸子「ボク達は3人で142'sですよ? ユニットでトリオなんですよ?」

幸子「なんかバラエティーの時ばかり、ボクだけ貧乏クジ引いてませんか!?」

輝子「幸子ちゃんは……フヒ、リーダーだから」

小梅「そう……だね……。みんなの、代表……」

輝子「けど、い、いちばん、カメラにも映れるよ……?」

幸子「そういえばそうですね。このカワイイ顔が1番多く映ると考えたら、仕方のないことでしょうね」

幸子「あーあ、カワイイ上に映る回数が多いなんて、ボクは罪深いですね……」




仁美「あの3人はクイズ番組の収録だったっぽいね」

ライラ「サチコさん、こちらから見る限りお疲れの模様でございます」

仁美「どのクイズ番組でも罰ゲームは体を張るからねー。疲れちゃうのは仕方ない」

ライラ「わかりました」

仁美「何が?」

ライラ「ちょっと行ってくるのです」

仁美「あっ、ちょっと! な……何がわかったの?」




ライラ「お疲れ様でございますよー」

仁美「おっつー、3人共」

小梅「あ……仁美さん、ライラさん……」

輝子「フヒヒ、お疲れ様……」

幸子「おや、2人揃ってボクらをお出迎えですか? フフーン、特別に感謝してあげましょう!」

仁美「まーたそんなこと言っちゃって。罰ゲームでズタボロになったんでしょ? 聞こえたよ、このこのー」

幸子「あ、あれはですね、問題が悪いんです! 問題が!」




ライラ「サチコさん」

幸子「何でしょうか、ライラさん? 仕事終わりのボクがカワイイから見とれちゃいました?」

ライラ「むぎゅーってしますですよ」

幸子「へ?」

ライラ「むぎゅー」

幸子「わ、わわっ! なんですか!? なんで急に抱き着いてきてるんですか!?」

輝子「お?」

小梅「うん……?」




ライラ「サチコさん」

幸子「は、はいっ!?」

ライラ「サチコさんの名前には『幸』の字が入っていますです」

幸子「はあ」

ライラ「サチコさんは、幸せですか?」

幸子「幸せ? 幸せっていうか、不幸せでは無いですが……」

ライラ「でも、サチコさんはいつもいつも体を張っています。つらくないでございますか?」

幸子「それは仕方ないですよ。ボクはカワイイので、そんな状況になるのもやむを得ませんから!」




ライラ「だけど、もしかしたらつらい気持ちにもなるかもしれないです」

ライラ「『幸』の漢字は、たった1本線が取れただけで『辛』になってしまうのでございます」

ライラ「そうしたら、サチコさんは……幸子ではなく、辛子に……」

幸子「辛子!?」

輝子「ツ、ツラコ……?」

仁美「字面的には、どっちかというとカラシだよね」

小梅「カラシちゃん……」




幸子「辛子ってどういうことですか!?」

ライラ「サチコさんが幸せじゃなくなると、そうなってしまう可能性がありますです」

幸子「名前までは変わりませんよ!?」

ライラ「それならオッケーなのでございますが」

ライラ「お友達としてですね、やっぱりつらい状態になってほしく無いのでございますよ」

ライラ「特に、サチコさんはユニットリーダーでございますし、よく体も張りますです」

幸子「ライラさん……」




ライラ「ライラさんは、まだまだサチコさんに及びませんですよ」

ライラ「知名度もそうですし、歌も。胸だって全然小さいでございます」

ライラ「でも、1つだけ違うところがありまして……」

ライラ「わたくしのほうが、ちょっとだけお姉さんです」

ライラ「もしも、大変になったら、ライラさんがぎゅっとします」

ライラ「ライラさんがサチコさんの、『幸』の1本線になるでございます。『人』の漢字みたいに支えてあげますですよ」




幸子「……ふふっ」

幸子「ありがとうございます、ライラさん」

幸子「しかし! 勝っているのが年齢だけではまだまだですね!」

ライラ「あと、ドラム叩けますですよ」

幸子「ふ、ふたつくらいでは、お姉さんポジションを名乗るのは早いですよ」

幸子「ボクを支えるつもりなら、ボクを超えてください」

幸子「ボクがつらくなった時に思わず頼ってしまうくらい、カワイイ立派なアイドルになってください!」

ライラ「予定は未定でございますが、目指しますですよー」

幸子「言いましたね? このボクを超えるのは並大抵のことではありませんよ!」




仁美「幸子って名前だけに、『幸』の1本線とは。うまい考え方をするね」

仁美「幸せを思って支える……アイドルとはかくありたいものだな、なんつって」

小梅「……」

小梅「……え、えいっ♪」

幸子「ひゃわっ! 小梅さんもですか!?」

小梅「なんとなく……た、楽しそうな、気がして」

ライラ「コウメさんも、むぎゅーですか? 仲良しこよしでございますねー」




輝子「あ、じゃあ……わ、私も……」

幸子「えぇ!?」

輝子「フヒヒ……とうっ」

幸子「むぐっ、く、苦しいんですが……」

輝子「お……おぉ、いいね。なんか、楽しい……」

仁美「いよっしゃあー! アタシも混ぜろー!」

幸子「なっ、ちょ、フギャー!」




幸子「ちょっと、みなさん! そんなに抱きつかれると動けないですから!」

輝子「楽しそうで、つい……」

小梅「ダ、ダメかな……?」

幸子「いえ、まぁ……嫌では無いですが」

仁美「思わずぬいぐるみみたいに抱きしめたくなっちゃったんだよねー、みんな」

幸子「つまり、ボクがぬいぐるみのようにカワイイと? しょうがないですね、もっと抱きついてもらっても良いですよ!」

ライラ「えへへへ、みーんな仲良しさんでございますですよー」




――fin――

 


 SS速報VIPに投稿したモバマスSS17作目。
 実は前に書いたバンジーSSよりも2ヶ月くらい前にはすでに出来上がっていたのですが、バンジーが劇中だと8月くらい(たぶん)だったので
 投稿タイミングを劇中に合わせる形にして、こっちを後に投稿しました。

 ライラさんは養ってあげたいけい女子。
 きっと声は本文中に貼ったアラビア語版ハム太郎の歌手みたいなやわらかくてカワイイ声だよ! そうだよ!
 ぶっちゃけ、アラビア語版なんて面白いものを見つけたから、ネタに使ってみようとか考えてこれができてしまった。ライラさんのSSもっと書きたい。

 

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