Princess Arthur |
発売日:2014年2月26日(PS Vita版配信開始日) 開発:ハイド 発売:オトメイト |
掲載日:2014年5月25日 |
■王様になろう(提案)
ファンタジーにおいては特にキャラクター等がよく拝借される作品、アーサー王物語。
ランスロットとエクスカリバーの名称はどこでも聞きますな。
あと、あれだ、平凡な人間だったのに聖なる剣に選ばれて……みたいな設定。王だったり勇者だったり。
なってみてぇよな……偉い立場に……
あ、でも責任とか色々負うことになりそうだし、やっぱいいや。
だからゲームの中だけで王様になるお!
そう、『Princess Arthur (プリンセス・アーサー)』でなァッ!!
公式サイト(Vita版のサイトは無いのでPSP版)→http://www.otomate.jp/pa/
このPrincess Arthurは2013年3月28日に、オトメイトから発売されたPSP用ADVゲーム。乙女ゲーです。
2014年2月26日に移植されたPS Vita版が発売しました。レビューするのはVita版ですが
トロフィーとタッチ機能以外追加要素とか別に無いので、読む上ではPSP版プレイ済の方も大丈夫かと。
物語としては
【ストーリー】(序盤の流れを要約)
主人公は元円卓の騎士エクトルの娘アル。
幼い頃から父に剣術を習っていた彼女は、次期ブリテン国王を選ぶ「選定の儀」が行われるキャメロット城に見物に来たが
なんやかんやあって選定に使う聖剣を引っこ抜いてしまい突如国王として祭り上げられることに……。
という感じで、概ねアーサー王物語の流れを踏襲していますね。ここだけは。
ただ、ゲーム向けに色々とアレンジがされています(例:ガウェインがモルゴースの子じゃない。また同じ人物のはずのモードレッドとメドラウトが別々の人物として登場等)
アレンジされているというより、アーサー王物語のキャラと地名を借りた別ゲーとしてプレイするべきですね。
ニューゲームでスタートしてすぐに
いきなり馬や人の死体が散乱する凄惨な絵と共に、死にかけの渋いイケボの男性の言葉が聞こえてきます。
「もし……もしあの時、この剣を抜いたのが私でなかったなら、こんな光景は生まれなかったのだろうか……」(前後のセリフ省略)
……情景とセリフとゲーム的にどう考えても「アーサー王物語」のアーサー王本人(原典で言うところのカムランの戦い後に致命傷受けた状態)じゃないかと思うのですが、この辺りは特にどうでもいいです。
というかエンディングのスタッフロールで、キャストにアーサーってばっちり書かれているんですがね。
このアーサーとOPについては、全キャラクリア後にショップで購入できる
「ある王の物語」(要は原典アーサー王物語を、知らない人向けにアレンジしたビジュアル付きダイジェスト版)でわかります。
■イケメンで強い……嫌いじゃないわ!
原典の方だと、円卓の騎士の人数ってあやふやなんですよね。
元々だと12人だったり、別の作品では数百人だったり。どれが本当なんだよ!
本作では作中厳密に何人という描写はありませんが、メインは6人(騎士5人+魔法使い1人)です。
騎士自体は出番の少ないケイ兄さん含めて10人出てくるんですけどね。あ、元騎士のエクトル殿入れて合計11人かな。
なお、男性向けエロゲとかである女体化と違って、原典から全員男連中だったから違和感はありません。
・ランスロット
よく見る二次元のイケメン要素を全部突っ込んだような全身藍色騎士。
・ガラハッド
陰のある暗いド真面目ポーカーフェイス……のように見えるツンデレ。中性的というか女にしか見えない。若干ヤンデレ気質有り。
・ガウェイン
騎士よりバーバリアンでステ振りしたような熱血筋肉バカ……のように見える純情ちゃん。かわいい。
・モードレッド
うっすらチャラ男遊び人っぽいさわやか笑顔の優男。ぱっと見ボールスに似ている。優しすぎて「お前どう考えても裏あるやろ」って思うキャラの典型。
・トリスタン
渋いオッサン。無精髭と乱雑な髪のせいで騎士服着てないとホームレスに見える(失礼)
ショップで買えるショートストーリー2で一瞬だけテラ子安化する
・マーリン
腹から胸までデカく開いた防御力の無さそうな服を着て、腹から胸までオサレな入れ墨を彫った若作りのオッサン(年齢不詳)
【攻略不可の面々】
・ボールス
騎士正装がどう見てもエプロン付けた部屋着にしか見えない。貧乏クジ引きそうなタイプ。騎士達のおかん。攻略不可。
・パーシヴァル
ザ・野生児。ほぼ上半身裸。鎧が全然防御力無さそう。こういうフリーダムなキャラは攻略したら楽しいんだけど、攻略不可。
・メドラウト
聖剣から選ばれるためだけにモルゴース様に育てられたけど、アルが聖剣を抜いちゃったため生きる意味を失ったかわいそうな奴。攻略不可。
ランスロットルートのように外道になることもあれば、ガウェインルートのように軋轢がちょっと解消されたりと、ルートによって立ち位置が全然違う。
その他色んなキャラがいるけど、結構数多いので省略。
攻略できるのは上のうちランスロット〜マーリンまでの6キャラ。それぞれグッドエンドとバッドエンドの2種類があります。
また、各キャラの設定画や追加ショートストーリーがタイトル画面の「Shop」から購入できますが
購入するには物語中のあちこちで手に入る水晶の欠片を集めなければいけません。
グッドエンドで120個、バッドエンドで30個手に入ります。
あとは4章までの王宮探索中に、キャライベントの起こる以外の場所で3個・5個・10個のいずれかの個数が手に入ったりしますね。
自分のプレイ感覚としては3個と10個はよく見つかるんですが、5個のは滅多に見つからない。どういう確率になっているんだこれ。
さくっと6人分のグッドとバッドを見ても、ショップの売り物を全部購入しようとすると微妙に足りなくなっちゃいます。
欠片は手に入れた時点でシステム内に所持数が記録されるので、これを利用して
王宮探索画面でセーブ→キャライベント以外の場所で欠片を手に入れる×3回→ロードしてまたキャライベント以外の場所で……
というせこい手段を使えば無限稼ぎできるので、どうぞ。
そうそう、全年齢・成年向け問わず、ADVでよくある"口パクとまばたき"をする、いわゆるアニメーションの立ち絵がありますが
本作の立ち絵も同様によく動きます。
攻略キャラだけじゃなくモブまで動きます。執政官のバートランドのみ、まばたきだけです。
それ以外で力入れてるなーと思ったのが口パク。
時と永遠〜トキトワ〜やSchool Days等の口パクにアニメーションがあるゲームは基本的にあまりセリフと動きが噛み合ってない(それでも違和感がある程ではない)のが普通ですが
このゲームは、かなり会話に忠実に口パクします。
例えば、「うーん……」みたいな間のあるセリフでゆっくり動いたり、早口やマシンガンセリフですばやく動いたり、本当にしゃべっているように見えます。
たったこれだけでも臨場感と没入感はハンパない
こういうちっこい演出だけでも個人的に評価は大いに上がります
エンディングまで立ち絵とにらめっこするのがADVですから、こういう力の入れ方は評価に直結しますね。本当に。
■シリアスで良いシナリオ。でもライターの技量に難あり。
個人的にはガウェインルートが一番やばい!
ガウェインとは中学生の甘酸っぱい初めての恋愛模様みたいでもうニヤニヤが止まらない。
というかガウェインのキャラが良いんだろうね。
惜しむらくはランスロットルート。
墓所でランスロットを刺した後、目覚めて「ランスロットは死んだけど生き返ったよ! モルゴース様は死んだよ!」みたいにニムエさんからダイジェストにまとめられるところ。
端折りすぎ。ギネヴィア様との関係は? なんで紋章があると強くなるの? というか紋章に細工されてたなら気付くだろ
ガラハッドルートは本編、おまけショートストーリーともに何かヤンデレ臭い。
自分だけ見てほしいという理由で(冗談で)断罪の塔や地下牢に閉じ込めるのは色々な危うさを感じる。
ラストのモルゴース&合体魔狼戦でいきなり聖杯だの観測者だの用語がいきなりたくさん出てきたのは、うーん。
モードレッドルートは……他ルートだと単なるイケメン兄ちゃんだけど、ルート入るとそれが仮面に見えて色々おっかない。実際仮面だった。
あと重い。愛が重い。こわい。
途中の例え話で出てくる「闇で這いずって生きている奴は、輝いている奴を自分の所まで引き摺り落としたくて……仕方がないんだよ」が
文字通りこのルートを一言でまとめているね……。
トリスタンとマーリンは、二人ともアルよりもかなり大人であるから中々恋愛的な意味では距離が縮まらない。
このもどかしさが良いですね。お互いの距離がじょじょに近づいていくこの感覚。
全編、王位と国を巡るまさに泥沼シリアスな展開。戦争もあるからバンバン死ぬよ! モブ兵士が!
こんな意味でも、王族の悩みが描かれなかった前にレビューしたやつとは違いますね。
アルがちょっと優しすぎ甘すぎな性格ではありますが、矛盾や破綻していないベターな物語構成だと思います。
違うといえば、今回はちゃんとルートごとに展開が全然違う流れになってくれていますね。いや、普通ADVってそうなんだけど。
キャラによって戴冠式が描かれたりカットされたり
終盤で戦を起こすのがグラモーだったりルキウス・ティベリウスだったり(ガウェインルートのみ両方)
その相手同士でも結構描写が違ったりする分新鮮な気持ちでできます。
また、伏線が忘れた頃に、それもキャラルートで効果的に回収されるのは良かった。
・共通2章の毒の楔。共通3章の偽リャナンシー。ガウェイン6章の燃えるマントの送り主→マーリン終章で判明
・ガラハッド終章の「我が君」→モードレッド終章で判明
・2回目の毒蛇と矢文→モードレッド終章で判明(1回目はマーリン終章で判明)
ガラハッドルートにてちょっと触れただけで終わった『聖杯』は
ある意味その存在そのものがこのゲームに関わっていることも「ある王の物語」でわかりました。
放置された伏線は……ランスロットの『(ニムエさんに対する)初対面なのに初めて会った気がしない』と
ニムエさんの『私はランスロットの母親のようなもの』の部分ですかね。
これは原典のアーサー王物語における、ランスロットがニムエに育てられた設定に関わるネタですが
ゲーム中ではそこを説明されないので、わからない人にはわからない感じになりそう。
まぁ、この伏線もある意味では「ある王の物語」で回収されたような物なんですが……。
恋愛ADVとして一番気に入ったのはガウェイン。
恋愛のお手本みたいで楽しい。
聖剣を巡る物語として、ゲームとして一番面白かったのは間違いなくモードレッド。
ケイ兄さんと和解する展開があるし大活躍する(兄さんとの和解自体はマーリンルートの方が好き)
そうそう、シナリオでは良い評価を上げられるのに
文章面でどうしても気になる書き方をしている点がかなり目につく
特に多いのが、アルの「……!?」「……っ」等のワンパターンなリアクションの多さ
次いで、「有難う(=ありがとう)」「今晩は(=こんばんは)」等の別に漢字変換してなくても良い単語の多さ
まずアルの反応のパターンの少なさについて。
驚いた時とかショック受けた時、ほぼ全編上記2つで構成されます。
エンディングまで何百回と同じセリフを見せつけられることになり、かなり目障り。
シナリオの長さ故にライターが疲れただけかもしれないですが、一字一句まったく同じ反応が1章〜終章まで続くとさすがにイライラする
あと漢字変換しなくて良い漢字
読みづらい
その一言に尽きます。
同人の物書きとしては、ありがとうを漢字表記するとやたら固い印象になるんですよね……。
自分の本では「ありがとう」「とにかく」「でたらめ」とかは漢字使いません絶対。
☆総評☆
グラフィック | A |
音楽 | A |
ストーリー | B |
プレイ感覚 | C |
ゲームバランス | B |
・グラフィック:元々PSP用だったのでかなり綺麗。ガラハッドルートの海のスチル好き。
・音楽:タイトル画面の讃美歌風のBGMといい、すべてがゲームにマッチしてた。
・ストーリー:シリアスで良かったけど、一部消化不良。
・プレイ感覚:ワンパターンリアクションは飽きる。
・ゲームバランス:CG量もシナリオ量も問題ない出来。
盛り上げるところは盛り上げる!
シナリオにメリハリをつけて飽きさせない!
にも関わらず文章が残念
たしかにストーリーは良いです。少なくとも自分はストーリーに関しては良作だと思います。
他のプレイヤーの方々がどう思っているかはわかりませんが、自分の場合は
文章の残念さで評価が下がってしまいました。惜しい。
そういった意味では、これのファンディンスクは非常に欲しい!
ルート続きや、アナザー(選ばれなかったパターン)の展開は非常に見てみたい。オトメイトさんお願いします!!!
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